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大統領の信念の土台にある「疑似科学」

──プーチンはこれから何をするのか。いま話していただいた思想から予想できることは何かありますか。

プーチン大統領のイデオロギーはほとんど万華鏡のようなのですが、2013年からそこに保守主義も加わっています。
プーチンの見たところでは、ヨーロッパは錯乱の道を歩んでいます。その「道」とはポリティカル・コレクトネスの道、ジェンダー理論の道、
リベラルで開放的な道のことです。

プーチンにしてみれば、家族は異性愛にもとづかなければなりませんし、倫理に宗教は欠かせません。
ウラジーミル・プーチンはロシアを世界における反近代的な保守主義の拠点にしたいのです。
この点に関してプーチンは、はっきりと19世紀の哲学者コンスタンティン・レオンチェフの名前を出します。
この人は「ロシアのニーチェ」と呼ばれる哲学者であり、その持論は、ヨーロッパがルネッサンス以降、没落期に入ったというものです。

プーチン大統領は、ウクライナ侵攻によってヨーロッパが弱いことを自国民や世界に対して示したかったのです。
実際、彼はヨーロッパのポピュリズムの政党や極右政党と関係を築いたり、「情報」をロシア側の見方から提供するメディアを進出させたり、
選挙に介入したりするなど、民主主義国の不安定化に取り組んできました。
今回もウクライナ人の移民を大量にヨーロッパに流入させ、戦争で物価が上昇したときに社会的トラブルが発生しやすくなるようにしています。

彼の戦略はヨーロッパを分断し、その力をさらに弱めることなのです。
ロシアは制裁に慣れていますが、それだけでなくプーチンは、ロシアの人間は優れていると心の底から信じているのです。

──その信念はいったいどこから来ているのですか。

その信念の大部分はロシアの民族学者レフ・グミリョフが考案した「パッシオネールノスチ(激情)」という疑似科学の理論に土台があります。
プーチンは最近もグミリョフを引用していますが、この理論は、それぞれの民族には暮らす土地の風土に合わせて、その民族を活性化させる
固有のエネルギーがあるというものです。そしてこの理論によれば、ロシアの人々はほかの国の人々よりも活力があり、力強いことになっているのです。

プーチンはまた、ロシア宇宙主義というこれまた疑似科学的な1920年代の思想の一部を信じている可能性もあります。
ロシア宇宙主義は世間一般にあまり知られていませんが、かなりの影響力を持っている思想です。これは自然科学と神秘主義を結び付けて、
死者を蘇らせたり、永遠の生を手に入れたり、宇宙植民構想を実現しようとしたりする思想です。