「市販薬を大量摂取」の若者たちが増加する深刻な理由とは

 滋賀県の女子高生誘拐死亡事件で注目を集めた「オーバードーズ」が、若者の間で深刻化しているという。ドラッグストアなどで手に入れやすい市販薬が使われる例も多く、なかには死に至るケースもある。なぜ若者はオーバードーズに手を出してしまうのか。薬物依存の治療に詳しい精神科医の松本俊彦氏に聞いた。

● オーバードーズが 仲間とつながるツールに

 オーバードーズとは、適正量を超えた医薬品を過剰摂取すること。近年は若者が市販の医薬品を用いてオーバードーズを行うケースが目立っている。

 「問題なのは服用の量だけでなく、本来の病気を治す目的以外の、より深く眠りたい、嫌なことを忘れたい、といった自己破壊的な願望による薬物乱用が行われていることです。特に、10〜20代前半の女性の乱用者が多く、一見真面目に見えても、内心には人に言えないストレスやトラウマを抱えている人がほとんどです」

 若い世代がオーバードーズに選ぶものとして多いのは、市販の感冒薬や鎮咳(ちんがい)薬。毎日1瓶(約80錠)の薬を飲むことが常態化していたり、通院している精神科医から処方された睡眠薬と同時に服用するケースもある。

 さらに、オーバードーズする若者は、「今日は100錠飲んだ」など、その日の成果をSNSに報告する人も少なくない。それは、SNS上で同じ行為を繰り返す仲間とつながりたいという願いからだ。

 「オーバードーズの成果をSNSで報告し合う人の間では、“どれほどの苦しみを味わったか”が基準のヒエラルキーが生まれてしまうこともあります。もともと自己肯定感の低い人同士が集まるため、いかにネガティブな経験をしているかが称賛の対象になってしまう。現実世界でダメ出しを受けて、人一倍承認欲求が大きくなった人が集まり、自傷行為をエスカレートさせていくことで、互いを認め合っているのです」

 皮肉なことに、オーバードーズは苦しみを抱える若者が、似た境遇の仲間とつながるツールにもなっているのだ。

(中略)

 「たとえば、オーバードーズで用いられやすい市販鎮咳薬には、メチルエフェドリンという、法規制されている覚醒剤原料が含有されています。医薬品に少量含まれるのは認可されていますが、これを多量に摂取すれば違法薬物を摂取しているのと同じこと。アッパー系ドラッグと同様に、眠気が飛び、元気になる効果があります」

 メチルエフェドリンは食欲を抑える作用もあり、服用すれば一時的には痩せる場合もある。実際、オーバードーズをする女性には、「痩せてきれいになりたい」という理由から手に取った人もいるそうだ。

 「同じく市販鎮咳薬に含有されているコデインは、麻薬及び向精神薬取締法で規制されている成分です。モルヒネやヘロインと同じダウナー系で意識がボーッとしやすく、覚醒剤よりも依存性が高いため、やめようとすると離脱症状が激しい。また、別の市販感冒薬に含まれるアセトアミノフェンという成分は、多量に摂取すると肝臓や腎臓を傷め、若くして透析が必要になるほど身体に影響を与えたり、死に至るケースもあります」

(中略)

 しかし、死のリスクを知ってもなお、オーバードーズをやめられない若者が増えています。そういった人たちは、『オーバーズすることで、万一、死んでしまうことがあったとしても、それはそれで構わない』と考えています」と指摘する。

 「現在、日本の自殺者数は減少傾向にありますが、10代だけを切り取ると、むしろ自殺率は増加し続けています。特にコロナ禍では、市販薬によるオーバードーズ患者が急激に増えました。恐らくDVなど家族との関係に葛藤を抱える多くの若者が、自宅で過ごす時間が増えたことでより苦しみ、ドラッグストアに駆け込んだのでしょう。緊急事態宣言中はステイホームが推奨されていましたが、そもそも居心地のいい“ホーム”を持たない若者は大勢いたのです」

 若者のオーバードーズだけを問題視してただ禁止するのではなく、その裏にある、死を願うほどの葛藤を抱える若者の増加に焦点を当てるべきなのだ。

(全文はこちら)
https://news.yahoo.co.jp/articles/b7a033d88674a75a21f4ae595fdf941f8a4e7437