神奈川県大和市がコンビニエンスストアのトイレを「公共トイレ」として市民に使ってもらう取り組みを始めた。市内には公衆トイレが少なく、高齢者が外出を控える一因になっているとみて、気軽に使えるトイレを増やす狙いがあるが、協力を呼びかけられた側のコンビニ側の反応が芳しくないという。双方の言い分を聞いてみた。

2014年の内閣府の調査では、60歳以上の男女6000人のうち1割以上が外出を控える理由として「トイレが少ない、使いにくい」を挙げた。外出時に気軽に使えるトイレとして真っ先に浮かぶのは公衆トイレだが、市によると、市内の公衆トイレは大和駅や公園など計46カ所しかなく、市が直接管理するトイレはここ20年増えていない。新設にはバリアフリー設備が必要になるため、最低でも数百万円かかるという。

 そこで白羽の矢が立ったのが、市内に約110店あるコンビニ。コンビニのトイレを公共トイレと命名し、自由に使ってもらおうという考えだ。協力してくれる店には店頭にステッカーを貼る代わりに、トイレットペーパー200ロールを提供する。2月1日に募集したが、1カ月で応じたのは7店だけだ。

 なぜ応じないのか。同市南林間で店を経営する60代の男性オーナーは「コンビニのトイレに公衆トイレと同じイメージを持たれるのは嫌だ」と応じなかった理由を説明する。客に使ってもらう以上、ある程度「公衆トイレ化」してしまうのは許容しているが、万引きに使われるリスクもある。トイレの性質上、防犯カメラは設置できず、死角となってしまう。客には店員に声をかけた上での利用を求めている。

 市内のコンビニの中には市と包括連携協定を結んでいる店もあり、見守り活動や消防設備の設置などに協力してきた経緯がある。このオーナーは「何でもかんでもコンビニに押しつけてしまえ、というのは違う。コンビニを軽視している」と語気を強めた。

 課題は防犯の観点だけではない。「公共」のトイレを掃除するのはコンビニ側だ。1月に公共トイレの概要を発表した直後、市に「便利で安全な場所にトイレを作ることは、市が最初にやらなくてはならない仕事」と批判する投書が届いた。投書はコンビニのスタッフの仕事が複雑化していることを挙げ「(従業員)全員が悲鳴を上げている。トイレを清潔に保つためには、朝、昼、夜と清掃活動が必要。こんなことをしていたら店が潰れる」と悲痛な訴えがつづられていた。

 一方で、協力する店は、商機の一つと捉えているようだ。経営する3店が協力店となった40代の男性オーナーは「トイレだけを利用することに抵抗がある客はいる。利用したついでに商品を買ってくれるかも」と期待を寄せる。

 市は23年3月までに50店に増やすことを目標としており、滑り出しは今ひとつだ。今後も店に協力を求めるといい、担当者は「トイレをきれいに使うということを市として啓発したい。少しずつ理解が広がっていき、協力してもらえる店が増えてくれたらうれしい」と話す。【池田直】

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