ウクライナには、米国が支援する生物兵器の研究所がある――。
こんなロシアのプロパガンダ情報が、陰謀論集団「Qアノン」から広がっている。

《世界は小児性愛者の集団によって支配されており、悪魔の儀式として、性的虐待や人食い、人身売買に手を染めている》。
Qアノンは、そんな主張を柱とする陰謀論、またはそれを信じる人たちを指す。
影の政府たる「ディープステート」には、民主党の政治家やハリウッドスター、マスコミや金融エリートらが所属していると考えている。

 Qアノンは2017年秋、日本人がオーナー兼管理人を務める匿名掲示板「4chan(ちゃん)」から始まった。
米政府の機密情報に触れられると自称する謎の人物「Q」が、20年末まで5千件近い投稿を続けた。
その内容は「名無しの」(アノン=Anonymous)掲示板ユーザーによって「リサーチ」や「解読」が進められ、根拠のない主張が数多くうまれた。

それがいま、ウクライナ危機をめぐる陰謀論とつながっている。

 米誌フォーリン・ポリシー(FP)によると、ロシア政府は今年に入り、「生物学研究所(バイオラボ)の本格的なネットワークが展開されている」
「カザフスタンでは米国の助成を受け、致死性のウイルスの研究が進み、すでに人びとが病気になっている」といった陰謀論を広め始めた

 FP誌によると、ロシアがウクライナに侵攻した2月24日の直後には、あるツイッターの利用者が英語で「プーチンは米国のバイオラボがある都市や
場所を標的にしている」「彼は100%、生物兵器の疑惑を追っている」などと投稿。このアカウントは過去2年間、Qアノン関連の陰謀論を
度々シェアしていたという。

 日本のQアノンコミュニティーでも2月末、ソーシャルメディア「テレグラム」のチャットグループにこんな書き込みがなされた。

 《アメリカの政府機関がDNAレベルで人間を変えようとしており、そのための研究所がウクライナおよび世界各地にたくさんある(あった?)らしい》

 ウクライナに米国が支援する研究施設はある。ただ、米国の説明によると、これはソ連崩壊時、旧ソ連の国々に残された核兵器や
ミサイルを破壊するための取り組みの一環で、「生物兵器を開発する施設」ではない。

 東京大大学院工学系研究科の鳥海(とりうみ)不二夫教授は、1月1日から3月5日の期間を対象に、ツイッターの日本語空間で、
どのような層が「ウクライナ政府はネオナチ」というロシア側の主張を拡散しているのかを分析した。
その結果、1万以上のアカウントが、計3万回ほど拡散していることが確認できたという。
さらにそのアカウントを詳しく調べてみると、46.9%がQアノン独特の言葉を含む投稿を拡散していた。

 鳥海教授は「慎重に見る必要があるが、データが示す限り、ロシア側の主張、Qアノンの主張をそれぞれ拡散しているアカウントは多く重なっている。
親和性がある可能性は高い」と話す。

https://www.asahi.com/articles/ASQ3R2HK8Q3PUHBI044.html