“感染するワクチン”、議論呼ぶ「自己拡散型」ワクチンとは

大半の研究者は、自己拡散型ワクチンは人間に対しては決して適用されないだろうと考えている。対象者全員の理解と同意を得ることは決してできないからだ。

「世界的なパンデミックが起こっていても、全員にワクチンを受けてもらうことはできません。こっそりウイルスをワクチンとして接種したりすれば、暴動が起こります。このワクチンが人間に使われることはないでしょう」とレッドウッド氏は言う。

 しかし、自己拡散型ワクチンを動物に使うことにも、規制や社会的なハードルはある。

「自己拡散型ワクチンは国や国境を認識せず、その中に閉じ込めておくこともできません。こうした介入は政治的にどのような意味をもつでしょうか」とピーターズ氏は言う。

 サンドブリンク氏はまた、自己拡散型ワクチンの研究は、バイオセキュリティ上の脅威になっていると指摘する。こうしたワクチンの影響を予防するには、感染性を微調整し、遺伝的安定性を変化させる技術が必要となる。そうした技術は、「パンデミックを引き起こしたり、生物兵器になったりするウイルスを作り出すのに応用できる特殊な能力を向上させます」

 科学界、世界的な衛生問題に関与する人々、資金提供団体は、より低いリスクで同等の効果が得られる代替策を検討すべきだと、サンドブリンク氏は主張する。たとえば、野生動物との安全な付き合い方について人々を教育することによって、ウイルスが拡散する機会を減らせるかもしれない。リスクの高い地域での疾病監視の改善や、ヒトおよび家畜用の従来型ワクチンや治療薬の研究開発の規模を拡大することも、重要な戦略だ。

 リスクが極めて高く、国際的な協力が必要で、もたらされる結果は元に戻せない可能性があることを踏まえて、この研究にどのような規制が課されるべきかについて、関係者は対話をする必要があると、レンゾス氏は言う。ナイスマー氏とレッドウッド氏も、まだ先の道のりは長いことを認めている。

「拡散型のウイルスベクターに対して人々が神経質になるのは誰にでも理解できます。この発想は人々に恐怖を抱かせるものです」とレッドウッド氏は言う。「この技術についてのわたしの考え方は、決して使われることはないかもしれないけれど、必要な時に使える完成品を戸棚に置いておいた方がよいだろうというものです。『危険すぎるからこの研究はやめておこう』という意見は、わたしには理解できません」

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/032300133/