当時8歳の男子小学生を含む3人が死傷した凄惨な事故は、ワイドショーなどでも大きく取り上げられたのでご記憶の方も多いだろう。ボートを操縦していた佐藤剛被告は業務上過失致死傷容疑で福島県警に逮捕され、起訴されている。

 昨年9月14日の逮捕からまもなく、共同通信は次のように報じた。

〈船の同乗者が航行中に撮影した動画に、異変に気付いて「やばい」などと慌てる関係者の声が記録されていたことが15日、捜査関係者への取材で分かった。動画には船がそのまま去って行く様子が写っていたという〉

 これが事実であれば、佐藤被告の行為は、悪質極まりない「ひき逃げ」や「証拠隠滅」と捉えられても仕方ないだろう。

 しかし、当の佐藤被告側は、そのような動画は存在せず、報道によって名誉を棄損されたとして今年3月に共同通信社を提訴したのである。

 佐藤被告の代理人を務める吉野弦太弁護士は、「私の20年に及ぶ法曹経験のなかで、ここまで被疑者の人格を傷つける“虚偽報道”は初めての経験です」と憤慨する。

 訴状によると、〈福島県警は,被疑者であった原告や報道機関に対し,当初から本件記事が誤報であることを明言〉しており、起訴後、吉野弁護士が検察官に動画の証拠開示を求めたところ、そのような動画は〈不存在であると回答し、本件動画が存在しないことを明らかにした〉という。

 吉野弁護士が続ける。

「事故直後に“やばい”と発言した動画が存在すれば、まさに動かぬ証拠になるでしょう。事故を認識しながら同乗者に口止めし、救護措置を講じないまま立ち去ったのなら、情状面にも極めて大きく影響します。被告に過失があったとされるならば、刑罰の重みを決定づける事情のひとつになりかねません。しかし、共同通信があそこまで断定的な報じ方をしておきながら、問題の動画は客観的に存在しないのです」

 佐藤被告側からの指摘を受けて、加盟社の多くはネット上に掲載していた記事を削除しており、渦中の共同通信の記事もネット上で探し当てることができなかった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4410bed199859ff95185497cd3c33c6bf5684c4a