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「韓国が嫌いだった」京都・ウトロ放火、22歳の男はなぜ事件を起こしたか

ヘイトクライムは防げるか(前編)

▽拘置所から届いた手紙の内容は…

 有本被告はなぜこのような事件を起こしたのか。記者は勾留先の京都拘置所に手紙を出し、
意図を尋ねた。数日後、返信が届いた。「拝復」で始まり「敬具」で終わる便箋5枚。
手書きでびっしりと文字を並べ、面会での取材は断るとしつつも、自分の考えを説明していた。
以下、誤字と思われる部分などを適宜直した上で引用する。

 被告は手紙の中で、ウトロと愛知での事件への関与を認め、動機をつづっていた。
背景として挙げたのは、新型コロナウイルス感染症の影響と、それに対する行政の対応だ。
コロナによる就職難と、国による支援制度の不十分さが影響しているのだという。
「最低保障であるはずの生活保護すら役所に断られる方が大勢いる中で、日本国籍を持たない在日外国人を
変わらず援助し続ける様態に、どれほどの方が不快感を抱いていたことか、当時のネットの声の数々を
見た限りでも想像を絶した」と持論を展開していた。

 ▽書き連ねられた事実誤認や論理の飛躍

そして放火に至った心情が述べられる。「多くの人が抱いていたであろう内なる不満や不快を、
目に見える対象にぶつけやすい状況にすべく、日本人の大半が嫌悪もしくは迷惑視する韓国人の
関連施設に対して事件を、放火を発生させた」

自らについて「右派思想こそあれど、右翼関係者ではない」とした有本被告。
人物像をより探るため、記者は西日本にある出身地を尋ね、彼を知る人物も何人か取材した。

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 返ってきたのは「右翼団体と付き合いがあったとか、そういう思想の発言をしたとかは、全然なかった」
「まじめで勉強ができた。学校から帰れば家でじっとしているような、おとなしい子どもだった」
「両親に愛されて、田舎で素直に育った。就職先で誰かに影響されてしまったのだろう」といった証言で、
事件につながる重要な手がかりはつかめなかった。

 手紙に書かれていた主張には事実誤認や論理の飛躍があり、にわかには理解しがたい。
ウトロ地区を指して「不法占有地区を公に周知させる目的」とする一方的な見解も記述されていたが、
先に示した通りそうした状態は土地を買い取ることなどによって解消している。

日本人の大半が韓国人を迷惑視するというのも根拠がなく、参照した情報として示されているのは、
「ネットの声」だけだ。また仮にこのような考えに至ったとしても、放火が許されるはずもない。

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さらにこの手紙は一貫して在日コリアンを「韓国人」と書いている。
在日コリアンの中には当然、現在の北朝鮮に当たる地域に出自のある人も数多く存在する。
南北分断前の朝鮮半島というルーツを大切にし、韓国や日本の国籍を取らず「朝鮮籍」のまま日本で暮らす人々もいる。
出入国管理庁によると、その数は21年6月時点で約2万7千人に上る。
こうした存在を無視したような書きぶりからも、被告の在日コリアンに対する
無理解がうかがえる。

 手紙に反省の文言はなかった。事件のターゲットにされた側の人々をどれだけ
不安に陥れたのかといったところまで考えを巡らせることは期待できないのだろうか。(つづく)

(後編はこちら)