革新的水素液化技術への挑戦
〜実用的な磁気冷凍法による水素液化コスト削減に道〜


1.物質・材料研究機構(NIMS)、金沢大学、および大島商船高等専門学校からなる研究チームは、
磁気冷凍システムの極低温における駆動を実現し、このシステムによる水素の液化に成功しました。
本研究により、磁気冷凍法による実用的な水素液化が実証され、低コストで省エネルギーな水素液化プラントの開発に一歩前進しました。

2.2050年脱炭素社会実現に向け、水素エネルギー利用が加速しています。
水素社会の実現に必要なインフラのうち貯蔵や輸送は、エネルギー密度の観点から液体であることが有利です。
水素は約20ケルビン(マイナス253度)という極低温で液化するため冷凍機が必要となります。
しかしこれまで利用されてきた気体式冷凍機の液化効率は最大25パーセント程度であり、
液化価格が水素製造価格の3分の1を占めることが、水素供給価格の削減および水素社会実現に対する
障壁となっています。このため液化効率の劇的な向上が求められています。

3.液化効率を大きく上げる有望な技術に磁気冷凍があります。これは、
磁性体への磁場の有無の変化に伴う吸熱・発熱反応を利用した冷却技術です。
気体式冷凍機ではエネルギー損失の主要因であった圧縮機が磁気冷凍では不要となり、
従来の課題であった液化効率の50パーセント以上達成が理論的には可能です。

4.しかし、これまで試されてきた水素液化用磁気冷凍は冷却動作温度範囲が数度と狭いので、
より実用的に水素を液化できる磁気冷凍システムには冷却動作温度範囲の拡大が必要でした。
これを解決するために能動的蓄冷式磁気冷凍(AMRR)が提案されています。
しかしエアコンなど日常的な温度範囲で家電への応用研究は進んでいるものの、極低温での実現は困難で、水素の液化は達成されていませんでした。

5.今回、本研究チームは、最適化された超伝導磁石の磁場中に磁性体を出し入れすることで、
高効率で発熱の少ない磁場変化を与える機構を開発しました。さらに、AMRRに最適化した熱交換器を開発するとともに、
磁性体形状の改良を行いました。これらにより、冷却動作温度範囲の拡大と極低温で安定したAMRRサイクルを実現し、世界で初めてAMRRによる水素の液化に成功しました。

6.今後この技術を高めることで、より高出力、高効率の磁気冷凍機を開発し、
低コストで省エネルギーな水素液化プラントの実現を目指します。

7.本研究は、NIMSエネルギー・環境材料研究拠点 磁気冷凍システムグループの神谷 宏冶 グループリーダー、
齋藤 明子 主席研究員、沼澤 健則 特別研究員、竹屋 浩幸 特別研究員、金沢大学の松本 宏一 教授、
大島商船高等専門学校の増山 新二 教授からなる研究チームにより行われました。

8.本研究成果は、「Applied Physics Express」にて2022年4月11日にオンライン掲載されます。

https://www.jst.go.jp/pr/announce/20220411/index.html