佐渡さんと「話したい」願い続け…20年間出なかった声戻る 明石の女性、音楽が救いに
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学生時代ピアノを専攻し、心の病から約20年間声が出なかった多久島晶子さん(49)=兵庫県明石市=は、指揮者佐渡裕さん(60)の大ファン。声が戻り「佐渡さんとしゃべってみたい」と願い続けていたところ、昨夏思いがけず街で言葉を交わせた。「一生忘れない」と心の糧にし、きょうも鍵盤に向かう。(松本寿美子)

多久島さんは「昔から他の人が当たり前にできることができず、精神的に追い詰められた」という。20代から大量服薬などをくり返し、声が出なくなった。「適応障害」などの精神疾患と診断され、度重なるけがで痛めていた両足が不自由に。車いすで暮らす。

救いになったのが音楽。小学3年からピアノを習い大阪芸術大学で専攻した。藤本渥子名誉教授(91)=宝塚市=は「感情が豊かに音色に表れ学生試験で唯一涙した」と評価してくれた。

佐渡さんについて「人柄、人間味あふれる演奏、全部好き」と語る多久島さん。ずっと心の支えだった。芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センター(西宮市)に母親と通い、サインの列に並んだ。「話せない自分にも、また来てねと笑顔で接してくれた」

最近はホールに行けなかったが、昨年7月に神戸・元町で偶然再会。「声が出るようになりました」と話すと「お母さんと演奏会に来てくれる娘さんや。声聞いたん初めてや」と一緒に写真を撮ってくれた。9月の明石公演では、手紙や写真をスタッフに託した。佐渡さんは「別人に会ったよう。何かの力で明るい性格が出てきたのかな。苦しいときに音楽や芸文センターの存在が大きかったと知り、うれしい」と話す。

多久島さんは現在、明石や神戸の街の「ストリートピアノ」を楽しむ。「ブラボー、また聞かせてねと声をかけてもらい、私も生きてていいと思える」と話し「素朴でぶっきらぼうな演奏やね、とも言われた。うれしかった。私の性格そのままだから」と笑う。

昨年10月には大阪国際音楽コンクールで年齢制限がない「Age-G」部門に出場し、ベートーベンのソナタ「熱情」の第1楽章を弾き入選。1月には加古川のホールで催されたコンサートにも出演した。「ピアノは私の分身」と声を弾ませる。佐渡さんは「まさに音楽が心のビタミンである証し。これからも音楽をそばに置き、人生を楽しく過ごしてほしい」と話した。