ちなみに2021年に初開催されたパリ〜ルーベ・ファム(女子レース)で優勝したリジー・ダイグナン(トレック・セガフレード)は30mmのチューブレスタイヤを使用し、その空気圧はロードレースとは思えないほど低圧の2.3barでした。低圧にすることでグリップや衝撃吸収性を向上させてパヴェ(石畳)を速く走ることができるのは疑いのない事実。ですが逆に舗装路に入ったら走行抵抗が増し、より大きなパワーで踏まないといけなくなります。

そんなタイヤ環境に一石を投じる新技術が発表されて注目を集めています。その新技術とは、タイヤ空気圧制御システム(名称スコープアトモス)。オランダ発ホイールメーカーのスコープ社が発表したもので、簡単に言えば走りながらタイヤの空気圧を調整できるというもの。チームDSMが早速パリ〜ルーベに投入予定です。

詳しく言うと、ハブ(車軸)にエアリザーバー(空気タンク)を備えたユニットを装着し、スポークに這わせたホースによってリムと接続する仕組み。事前にエアリザーバーに空気を充填しておき、手元のワイヤレススイッチでエアリザーバーからホース経由でタイヤに空気を送って空気圧を上げ、また逆にホースを介して空気圧を下げることも可能という優れもの。空気圧は随時サイクルコンピューターで確認できるといいます。

具体的にどの程度の調整幅があるのか、何回調整できるのかは明記されていませんが、路面状況に合わせて適切なタイヤ空気圧にすることで転がり抵抗を30W低減すると謳っています。当然重量は増すものの、登りの少ないパリ〜ルーベでは重量は問題にならないとみられます。

特にパリ〜ルーベでは、レース前半の舗装路を高い空気圧で走り、パヴェ区間の手前で空気圧を下げ、また舗装路に入ったら空気圧を上げるという戦略的な走りが可能になります。かつてはコース沿道で待ち構えたスタッフから区間ごとに調整された空気圧のバイクを受け取って乗り換えることが可能だったものの、今はUCIルールで沿道からの機材サポートは禁止されています。つまりタイヤの空気圧を調整するためには、沿道に立ち止まって自分でバルブを緩めてプシュプシュと抜く、もしくはチームカーに戻って空気圧調整済みのバイクやホイールを交換するしかありませんでした

モーターやコンプレッサーを省いたこのシステムをUCI(国際自転車競技連盟)は承認済み。UCIルール1.3.004に則って、チームDSMがこのアトモスをパリ〜ルーベで使用することを許可しています。とはいえ市販品じゃなければレースで使用できないため、アトモスはパリ〜ルーベ開催2日前の4月15日に発売開始予定。参考までにユニットのお値段は3998ユーロ(約547000円)です。

マウンテンバイクで培われたドロッパーシートポストを駆使してミラノ〜サンレモを制したマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)が「将来的にロードバイクのハンドル周りはF1のコックピットのようにスイッチだらけになる」と予言していた通り、早速ハンドル周りにスイッチが追加されることに。ドロッパーシートポストもこのタイヤ空気圧制御システムも走行の安全性を高めるものであるため、UCIは問題視しなかったのだと推測されます。



石畳を制する新技術?タイヤの空気圧は走りながら制御する時代! | サイクル ロードレースのコラム | J SPORTSコラム&ニュース
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