梅毒患者が急増 過去最多の21年同期比1.6倍 10年続く流行

 かつてはめったに診断することがない「幽霊病」と言われた性感染症、梅毒が急増している。今年は4月3日までの患者数が2397人で、過去最多を記録した2021年の同じ期間と比べると1・6倍に上る。その感染の広がりから専門医は「もはや普通の性感染症になった」と指摘する。

 梅毒は11年以降増加に転じ、13年から爆発的に増えた。昨年は7875人(速報値)が確認され、これまで最多だった7007人(18年)を更新した。22年は4月3日現在、全国で2397人(速報値)が報告され、前年同時期の1475人と比べ、著しく増加している。

 10年以上に及ぶ流行拡大の背景には、海外客の増加や会員制交流サイト(SNS)などを介した出会いがあるとされるが、詳しい原因はわかっていない。梅毒の患者と性交渉した場合の感染率は3割程度と高く、感染に気づかないまま検査や治療に結びつかず、拡大のスピードが増していると考えられる。

 梅毒は「梅毒トレポネーマ」という細菌が、性行為などによって性器や口などの皮膚や粘膜の目に見えない小さな傷から侵入して感染する。感染後2〜3週間で性器などに耳たぶの軟骨ぐらいの硬さのしこりができる。2〜3カ月後には手のひらや足の裏など全身に発疹が出るが、痛みやかゆみがないことがほとんどだ。

 早期に経口薬を服用すれば回復するが、感染に気づかずに放置すると、数年から十数年をかけて、脳や目、心臓、神経などを侵し、重大な合併症を引き起こして命を落とすこともある。一度かかれば二度とかからない終生免疫は付かず、何度も感染する可能性がある。

 「梅毒はもはや普通の性感染症として定着してしまった」。東京都新宿区の新宿レディースクリニック院長の釘島ゆかり医師はこう強調する。同クリニックでは、昨年8月から梅毒の診断が顕著に増加し、今年1、2月の患者数はそれぞれ19人、12人と過去5年間で最多だった。

 同クリニックでは性風俗産業で働く人が患者の多くを占める。定期的に検査結果の提示を義務付けている店舗がある一方で、性感染症に関する対策が取られていないところもある。釘島医師は「費用面で検査を受けることをためらう人も少なくない。性感染症のリスクがある産業では、検査を受ける人の費用負担を軽減できる仕組みを考える必要がある」と指摘する。

 梅毒は感染症法に基づき、診断した医師は全数を保健所に届け出ることが義務付けられている。昨年10〜12月の患者数は、東京が675人、大阪247人、愛知135人と多かったが、人口100万人あたりの報告数は東京(49・9人)に次いで高知(30・2人)が多く、大阪、岡山、福島、広島、香川も20人を超えており、都市部に限らず地方でも増えている。

 21年は性別、年代別にみると20代女性が最も多かった。女性の感染増加によって、懸念されるのが胎盤を通じて赤ちゃんに感染する「先天梅毒」だ。死産につながる恐れもある。ここ数年は20人前後で推移しており、21年の0歳児の感染確認は21人だった。

 釘島医師は「新型コロナウイルスなど呼吸器感染症はマスクの着用で感染リスクが下がるように、性感染症はコンドームを使うことでリスクを下げられる」とした上で、「それでも100%予防ができるわけではないので、複数の人と性行為をする人はまめに検査を受け、パートナーが1人の人は相手が変わるタイミングで双方が検査を受けるようにしてほしい」と呼びかける。
https://news.yahoo.co.jp/articles/8bced0f63413595ee5355b7ce5a3ac83d97df774