いくら呼びかけても、ペットのネコがそっぽを向いたまま、という状況はよくある。だが、飼い主を嫌っているわけではなく、ちゃんと気にかけていることが、京都大などの研究でわかった。50匹の実験で、ネコが飼い主の位置を把握するすべを突き止めた。
京大に所属していた高木佐保・日本学術振興会特別研究員(比較認知学、現・麻布大特別研究員)によると、同じペットでもネコはイヌと比べて、心理や行動についての研究報告が少ないという。
「ネコは人の言うことを聞かないので、実験が進まないのでしょう」
自身もネコを飼っている高木さん。ネコの魅力を「美しい。見た目もしなやかで、運動神経が優れているのもあこがれます」と語る。ネコが周囲の世界をどのように認識しているかを知ろうと研究に着手した。ネコの耳は20種以上の筋肉があり、左右別々に動かせるため、聴覚を生かしているのではないかと考えた。
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検証実験には、ペットや猫カフェのネコを50匹集めた。
部屋に1匹にしたネコに、あらかじめ録音しておいた、飼い主が名前を呼ぶ声を室外のスピーカーで5回流す。慣れた声にネコは特に反応も示さない。
ところが、間髪入れずに6回目の声を4メートル以上離れた室内に「瞬間移動」させて流すと、多くのネコは周囲を見回すなど、驚いた様子が観察できた。同じ実験で、6回目に他人の声を流してもネコはそれほど驚かなかった。
同居している他のネコの「ニャー」という鳴き声や単なる電子音を同様に、繰り返し流した後に瞬間移動させても、ネコはほとんど反応を示さなかった。
実験はシンプルだが、検証に必要な数のネコを募ることや、ネコに実験を最後までやり遂げさせること、「驚いた」という評価の客観性を論文の投稿先に理解してもらうことなど、あらゆる局面で苦労したという。
ネコは聴覚で飼い主の位置を頭の中に描いているため、通常ではあり得ない声の瞬間移動が起きた時に驚いたと考えられる。他人の声や他のネコの鳴き声については、個体を識別する必要がないとみなしているようだ。
高木さんは「ネコは見えない場所に飼い主がいても、心の中でとらえています」と話す。今後は、名前など声の内容を理解しているかを調べたいとしている。
https://www.asahi.com/articles/ASPDF53HRPD7PLBJ001.html