選手の親やコーチからの暴言・暴力が原因?

コロナの感染拡大から2年が経ち、社会経済活動の正常化が一段と進むにつれ、アメリカでもユーススポーツ(高校生以下を対象にしたスポーツ)の試合が再開されている。

これを楽しみにしていたユースアスリートは多い。しかし、残念ながら試合のキャンセルが相次いでいると、各紙が報じている。

理由は、深刻な「審判不足」である。「審判をする人がいない」ために、試合中止、もしくはシーズン中断に追い込まれている。

以前から、アメリカのユーススポーツ界では審判の辞任が相次いでいることは問題となっていた。特に、2018年頃から急激に減少しており、2018〜2021年の間に、あらゆる高校スポーツにおいて約5万人の審判が辞任したと米紙「ニューヨーク・タイムズ」は報じている。

これは高校スポーツの審判人口の20%に当たる数値だ。なかにはより深刻なスポーツもあり、アイスホッケーに至っては審判の4分の1が辞任している、と同紙は書く。

この最も大きな原因は、選手の親やコーチからの「暴言・暴力」だと言われている。審判の軽視は年々悪化しており、歯止めが効かなくなっている。米紙「ロサンゼルス・タイムズ」によれば、今月だけでも「審判が襲われる事件」がアメリカの複数の州で起きている。

たとえばミシシッピ州では、12歳を対象としたソフトボールの試合の後、審判が出場選手の親に駐車場で待ち伏せされ、顔面を殴られる事件が起きた。暴力を振るったその親には、約5万円の罰金が科された。

また、ジョージア州ではバスケットボールの試合で試合終了の笛を鳴らした後に、審判が中学2年生の選手とその両親に暴行され、約30針を縫う大怪我を負った。

さらにテキサス州では、9〜10歳の野球の試合中に出場チームのコーチが審判を突き飛ばし、病院に送られる事件が起きている。他にも、選手から暴行を受けた審判もいる。

こういった試合中や試合後の審判への暴力行為は、動画におさめられていることも少なくない。それらがネット上に出回っていることもあってか、ここ数年は「新たに審判の採用をかけても見つからない」。

アメリカのユースサッカーの審判を14年間務めているある審判は、「これほど多くのゲームが(審判がいないことを理由に)キャンセルされるのは経験したことがない」と、同紙に語っている。

審判のうち80%が2年以内に辞職

一般的に、ユーススポーツの審判は低賃金だ。「ニューヨーク・タイムズ」によれば、1試合あたりの報酬は、35〜150ドル(約4500〜2万円)程度にしかならない。多くの審判は他にフルタイムの仕事を持っており、週末や夕方の空いた時間にのみ「審判」を務めているのが現状だと述べている。要するに、この仕事は「お金のための仕事ではない」。

パンデミックによりユーススポーツの試合がなくなったことで、辞職率はさらに急増したと、同紙は書く。また「ロサンゼルス・タイムズ」は、ユーススポーツの審判のうち、80%が2年以内に辞職しているという。

同紙に寄稿したジャーナリスト兼ユースサッカーの審判でもあるベン・シャーウッドは、こう語っている。

「多くの試合は滞りなく行われている。だが、あまりにも多くの審判が侮辱され、ルールが無視され、虐待と暴力が横行している。親もコーチも『勝つこと』しか頭にないようだ」

暴行事件が起きれば、どちらのチームがどれだけ得点したかや、誰かのファインプレーの記憶は一掃され、せっかくの試合の思い出は「暴力事件一色に塗り替えられてしまう」。

また、彼は審判への暴言・暴行がかつてないほど増えていることについて、「パンデミックによるストレスの影響も少なからずあるだろう」との見解をみせている。

「専門家のなかには、世界が『正常化』に向かえば、この暴力の問題も自ずと解決へと向かうと信じている人もいる」が、そう悠長に構えている余裕はない。「このままでは、ユーススポーツが崩壊してしまう」と警告を鳴らしている。

ユーススポーツの審判団体は解決策を模索中だ。「ニューヨーク・タイムズ」によれば、サンフランシスコのサッカーの審判たちは、試合前に審判が自己紹介のスピーチを行うことを検討しているという。これには、審判が生身の人間であることを知らせる意図や、観客からのより多くの共感を引き出す狙いがあるようだ。

また、シカゴの審判団体はユースリーグやチームと提携し、保護者やコーチのためのスポーツエチケットに関するクラスを提供し始めているそうだ。

https://courrier.jp/cj/286950/