冬から春にかけての雨上がりの日、米国西海岸の道を歩いていると、家の庭やビルの前の植え込みなどに、たくさんのキノコが生えているのが目につく。

 サンフランシスコ近辺でも様々な種類のキノコを見かけるが、キノコ通にとって特に気になるのが、いわゆる「マジックマッシュルーム」として知られる幻覚キノコだ。

 なかでもよく見られるのは、シビレタケ属のキノコ3種。シロシベ・キアネセンス(Psilocybe cyanescens)、シロシベ・アレニー(Psilocybe allenii)、そしてシロシベ・オボイデオシスティディアータ(Psilocybe ovoideocystidiata)は、幻覚作用を起こすことが知られている。(参考記事:「幻覚剤でメンタルが整う!?「マイクロドージング」が米国で拡大」)

 P. キアネセンスとP. アレニーには、幻覚を引き起こす化合物であるサイロシビン(シロシビン) が含まれている。サイロシビンを含むシビレタケ属のキノコは数百種にのぼり、最近では、こうしたキノコには心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病の治療に有効な可能性があるとして注目が集まっている。米国では合法化の支持が広がり、精神疾患に対する治療効果を示す証拠も積み上がりつつある(編注:日本では麻薬原料植物として規制)。

 しかし、こうしたキノコの生物学、生態学、進化の歴史について、わかっていることはまだわずかだ。米オハイオ州立大学の生物学者で、菌類の進化遺伝学を研究するジェイソン・スロット氏によると、マジックマッシュルームは倒れたばかりの木よりも、他の菌類によって栄養が抜き取られ、ある程度分解が進んだ後の古い倒木によく生えるという。また、ガーデニングで使用するウッドチップが、特にお気に入りだ。

 都市や郊外には、ウッドチップで覆われた人工の庭や植え込みが多い。つまり、ネズミやハト、ゴキブリのように、マジックマッシュルームも人間のすぐそばで生きることができるだけでなく、むしろこうした場所が繁殖に最も適しているようなのだ。

 キノコ採集家で、化学者でもあり、オレゴン州でマジックマッシュルームの研究室を運営するジョーダン・ジェイコブス氏は、「人間は、巨大なコンクリートジャングルという極めて反自然的なものを築き、そこに大量のウッドチップをまきます。人間の意識に長期的な影響を与える幻覚性のキノコが、こうした環境を自分たちのすみかとして選んだというのは、とても興味深いです」と話す。

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