文芸批評が「花形」だった時代 筒井康隆『文学部唯野教授』
2021/7/11 17:30 [有料会員限定記事]

酒井信さん寄稿

 早治大、立智大、政教大など実在の大学を想起させる場所を舞台にした、唯野教授を主人公とする「アカデミック・コメディ」である。作中に江戸川公園が登場するため、唯野教授が所属する大学のモデルは早稲田大に近いのかも知れない。いずれにしても唯野教授は軽いノリでアカデミックな世界を渡り歩く、愛すべき性格の持ち主である。早治大では「歩く饒舌(じょうぜつ)」と噂(うわさ)され、学内での出世は望めないが、匿名で文芸誌に小説を書いて文学賞の候補となったり、他大学で羽を伸ばして、ポップで分かりやすい批評理論の講義を行い、学生の人気を集めている。教授会の議事進行や教員の昇進・移籍、論文の審査や商業メディアへの寄稿など、日本の大学が有する独特の慣習について、筒井康隆が知り合いの大学教員へ取材し、その内実を記した点も話題となった。...

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