作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、公共の電波で語られた性教育について。

 先日、「ラジオであなたの話をしているから聴いたほうがいい」と友人にすすめられた。TBSラジオ「アシタノカレッジ」という番組で、
社会学者の宮台真司氏がゲストとして「性教育」を語る回だった。正確に言えば、「私の話」ではなく、私が長年売り続けている「バイブ」が話題になっていたのである。
公共の電波で女性のマスターベーションが話題になること自体が珍しいが、
番組のパーソナリティーである30代のキニマンス塚本ニキさんと63歳の社会学者の対話には、時代の流れを深々と感じさせるものがあった。

(中略)
「代々木忠(AV監督)が描いたように、女性は性愛で失神したり、号泣したり、過呼吸になったり、聞こえない、見えないという状況に誰でもなれる」
「女の人はそういう可能性があるのに、それを使えないでそのまま死んじゃうんじゃないかとみんな焦り始める」
……で婦人公論に「中イキしないッ」と悲鳴を届ける(←本当なんですか?)というのである。

AVで表現されたことがリアルだと思っているんだ……と衝撃を受けてしまう。
(ちなみに私は20年以上前、代々木監督をインタビューしたことがあります。
性器に頼らずにオーガズムに導く作品を撮っていた代々木監督は、取材中に私の手をとり「感じるよ」というようなことを言いながら指をこすってきました。←同意の上です。
でも、なかなか終わらず……感じるフリをしたほうがいいのかな、AVに出演する人は大変だな……と困惑したことを久々に思い出しました)

(中略)
 いやー、TBSラジオ、すごいです。ここまで偏った考えや、確かかどうかわからない情報を言い切って放送する自由な空気、すごい。
出演者に合わせて、公園でみんながセックスしていていろいろなんでもありだった80年代バージョンに合わせたのでしょうか。

 ちなみに宮台氏が言うには、日本の性愛がダメになったのは、セックスに不安を与え脅す保守派と、
セックスを被害と加害の図式で捉える#MeTooのせいだそうです。その結果、性愛を知らずに年をとり「30代後半になって市場での賞味期限が来た」(宮台氏の言葉です)

女性たちが、「女性用風俗に殺到するという現象がコロナ禍以降起きている」のだそうです。
研究者が根拠も示さず言いきるレベルを超えてます。ここまでくると私はかなり笑いました。

というか、宮台氏の話をまともに受ければ、日本の若者がセックスしなくなったのは私のせい……です。
女性用バイブを売り、#MeToo運動に関わってきた私が……日本の性愛を後退させてしまって、ほんとにゴメンナサイね。

 それにしても改めて思うのは、今やセックスを過剰に語るのは、若者ではなく老人たちだということだ。
確かに80年代くらいまで、「初体験」年齢が低ければ低いほど自慢になるような空気が確実にあった。
テレビをつければ、女性がおっぱいを出してるような映像はいくらでもあって、セックスシーンも今よりもずっと濃厚に描かれていて、
男が女好きで“スケベ”なのが「一般常識」で、人間の生きる最重要課題がセックスだ、というような空気があった。セクハラは「コミュニケーション」とされ、
痴漢は犯罪ではなく「男性のいたずら」であった。

 で、そういう一つ一つを、「それ、違いますけど」とフェミニストたちがアップデートしていく作業がここ数十年間で行われてきたのだと思う。

セックスは、言葉で同意を確認しながら、権力の乱用が起こりえない安全な状況で、安心した気持ちで、本当に自分がしたいと思えることを、
お互いの意思を確認しながらするとすごく気持ちいいのではないでしょうか……というところに、行こうとしている……はずだ。
それは「僕が性愛を定義する」という昔ながらのセックスよりも、ずっとマシなはずだけどね。

 教訓。昔話はほどほどに、だ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4a56ed065bff10bd2d78b425bc03e22ba3b46e07?page=1