若者の脳脊髄液を移植すると衰えた記憶力が蘇ることがマウス実験で明らかに
2022年05月15日

永遠の若さは人類の見果てぬ夢だ。その為に様々な研究が試みられており、これまでの研究で、若い血液を注入することで、年老いたマウスの認知機能が若返ることが確認されている。

だが安易に若い人の血液を輸血しようと試みる者もあらわれ、アメリカ食品医薬品局が真似をしないよう注意喚起したほどだ。

今回スタンフォード大学の研究グループによって、血液の代わりに、若者の「脳脊髄液(のうせきずいえき)」を移植することでも、老いたマウスの記憶力が向上することが確認された。

しかも、それと同じ効果を再現できる「成長因子」も発見されたため、髄液を移植せずとも、認知症などを治療する薬が開発できるかもしれないそうだ。

若いマウスの脳脊髄液で記憶力が改善
スタンフォード大学、タル・イラム氏らの実験では、まず高齢(生後18~22ヶ月)のマウスに、音を鳴らし、光を点滅させると同時に、足に軽いショックを与えた。それから2グループに分け、片方には若いマウス(生後10週)の脳脊髄液を投与する。

マウスが再び音と光を見たときに、じっと動かなくなったら、それは過去の嫌な体験を覚えていて、ショックに対し身構えたということになる。

この記憶テストを、脳脊髄液の投与から3週間後に行ってみた。その結果、若いマウスの脳脊髄液を投与されたマウスは、そうでないマウスよりも身構えることが多かったのだ。つまり投与されていない同年代のマウスに比べて、記憶力が改善していたのだ。

記憶力が改善する成長因子を発見
その後の調査では、若いマウスの脳脊髄液によって記憶力がアップする仕組みも確認されている。

「海馬(脳の記憶を司る領域)における遺伝子の変化を詳しく観察したところ、「オリゴデンドロサイト」に関係する遺伝子に顕著な特徴が見つかりました」と、イラム氏は説明する。

オリゴデンドロサイトは、脳のグリア細胞の一種で、「ミエリン」(髄鞘。絶縁体として機能する)の形成を担う。

実は老化した脳にも、オリゴデンドロサイトの前駆体ならたくさんある。しかし老いた脳では、その成長をうながすシグナルに反応しにくくなっている。

若い脳脊髄液は反応が鈍くなった前駆体を再び増殖させ、ミエリンの形成をうながすのだ。

イラム氏らが発見したのは、それと同じ効果が「FGF17」という繊維芽細胞の成長因子(細胞の増殖や分化を促進するタンパク質)にもあることだ。

これを注入すると、若い脳脊髄液と同じようにオリゴデンドロサイトの前駆細胞が活発になるのだ。

認知症の特効薬の誕生に期待
この方法で、人間の高齢者の記憶力を改善できるようになるのはまだまだ先のことだ。それでも、将来的な認知期の低下を心配する人には朗報だろう。

若者から脳髄液を吸い取るなんて鬼のようなことをしなくても、若い頃の記憶力が蘇るのなら、こんなに素敵なことはない。
若いマウスの脳脊髄液に記憶力を改善する因子が含まれているというイラム氏らの発見は、脳の健康と老化の分野で革新を起こすもの
と、ボストン小児病院のミリアム・ザワツキ氏とマリア・K・レティネン氏は第三者の立場からコメントする。

 FGF17成長因子は記憶力改善薬として有望なだけでなく、脳脊髄液に直接作用する認知症薬の開発なども期待できるとのこと。それは高齢化が進む日本のような社会に欠かせないものになるかもしれない。

 この研究は『Nature』(2022年5月11日付)に掲載された。
https://karapaia.com/archives/52312660.html
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