https://news.yahoo.co.jp/articles/05cbeeaf43dcdc31b9dcb7864ed2067067477643

なぜ野球用品は高い? “カラクリ”生む現状に疑問…初心者用グラブを安く売るワケ

フィールドフォースが新しい少年野球用グラブを開発
フィールドフォースが初心者用グラブを安く売るワケ

 改良を加え、さらに柔らかくなった。野球用品を製造・販売する「フィールドフォース」が、捕球のしやすさを追い求めて開発した初心者用グラブ。価格は税込みで4400円で、グラブとしては破格と言える。ただ、吉村尚記社長は「決して安売りをしている感覚はなく、適正な利益を得ています」と強調。野球用品が高騰する現状に疑問を投げかけ、仕組みを変えようとする決意の表れだった。
 フィールドフォースは昨年、少年野球用グラブをプレゼントする「グリーングラブプロジェクト」を実施。野球人口の減少に歯止めをかける取り組みの一環で、計2000個を無償で子どもたちに届けた。

 2回の応募期間には、予想をはるかに上回る申し込みがあったという。吉村社長は初心者向けのグラブが市場に不足していると実感し、「少年野球を応援している会社として、ノウハウを一番注入しないといけないのは初心者向けのグラブ」と新たなグラブの開発を決めた。

 販売を始めた「Stage1 グリーングラブ」は、昨年プレゼントしたグリーングラブに改良を加えた。一般的なグラブは、ウェブと呼ばれる網目の上の部分にレースが巻き付けられている。グラブの強度を高める効果がある一方、グラブが硬いと感じる原因となっている。吉村社長は「速い打球、強い打球を捕る時には強度が必要です。ただ、初心者に大切なのは、柔らかく捕りやすいグラブ」と考え、レースをグラブの中に通して、外側には切れ込みを入れた。これによりグラブが閉じやすくなり、握力の弱い子どもでもボールが捕りやすくなったという。

 指を入れる部分にはスポンジ素材を使用した。通常使われている革の場合、手に当たった時に痛いと感じる子どももいる。手袋のように柔らかい感触を目指し、初めてスポンジ素材を取り入れた。親指に力が入る構造や、素材に牛ではなく豚の革を選んだことも、捕りやすさにこだわったためだ。

なぜ4400円で利益出る?「自分たちの工場でつくったものをダイレクトにお客様に」

 今回開発した初心者用でも、プロ仕様でも、グラブは製造の工程は大きく変わらないという。平らな革を裁断して、30個近いパーツを縫い合わせる作業は全て人の手。つまり、人件費を削るのは難しい。それでも、4400円で販売できる理由を吉村社長は説明する。

「私たちの強みは、自分たちの工場でつくったものをダイレクトにお客様に届けられるところにあります。経費を削減して、適正価格でお客様に届けられます」

 適正価格――。決して安売りではなく、「適正な利益」があると繰り返す。そして、「お金がないと野球はできない」と言われる少年野球の現状を変えようとしている。

「各メーカーは宣伝効果の一環でプロ野球選手と契約を結んで、年間20〜30個のグラブを無償で提供しています。企業は利益を上げなければならないので、小・中・高校生が購入するグラブの価格に落とし込んで、かけたお金を回収します。野球用品は高すぎます。私たちも含めてメーカーが努力しないと、野球人口の減少に歯止めがかかりません」

 子どもの数が減っている以上、野球人口の減少は避けられない。ただ、子どもが野球を始めるハードルの1つに、グラブやバットなど決して安くない用品の価格がある。ピラミッドの頂点であるプロの姿が、野球の普及に貢献しているのは間違いない。だが、ピラミッドを支える少年・少女が購入する野球用品の価格に影響が及び、競技人口が増えなければ本末転倒だろう。フィールドフォースが「品質には自信があり、適正な利益もいただいている」と話す4400円のグラブは、野球界への提言と挑戦でもある。