堤:今世界では、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)のようなビッグテックのプラットフォームが、事実上情報の独占権を握ってしまったことが問題になっています。ソーシャルメディア事業者による言論統制も進んでいて、例えばツイッターの投稿が、本人も知らないところで、ほかのユーザーに見えないようにされていたり……。

タン:ああ、わかります。それは「シャドーバンニング」と呼ばれるテクニックですよ。ところでミカの言う「ソーシャルメディア」とは、1つのカテゴリーとしてのですか? それとも、ツイッターとフェイスブックだけ?

堤:ツイッターやフェイスブックのような、商業版SNSの話です。

タン:よくわかりました。それを聞いた理由は、私たちの活動におけるソーシャルメディアは、そうしたものとまったく目的が異なるからです。台湾の人々は、そういうSNSではなく、ソーシャルセクター版のSNSで、政治や行政について話し合うのが好きなんです。

例えばPTT(台湾の最大規模のオンラインコミュニティー)というSNSは、完全にオープンソース、100パーセント非営利で共同運営されているんですが、これができるのは学生たちが25年以上もの間、大切に続けてきたプロジェクトだからです。

運営費のほとんどは、行政院国家科学委員会(現:行政院科技部)の助成金で賄われています。つまり、台湾で「ソーシャルメディア」という場合、それは社会的セクターや、ボランティアが管理・運営を行う共同メディアのことを意味するわけです。

もちろん台湾にも趣味のためにフェイスブックを使っている人はいますが、とくに行政サービスに関することになると、まったくメジャーではありません。

政策請願書を出したり、参加型予算編成に意見を言ったり、総統杯ハッカソン(公共政策のアイデアをプレゼンする大会)へ投票したいとき、台湾の市民は、政府が管理する公共のデジタル空間を利用するからです。

これらのインフラは、GAFAにまったく独占されていません。つまりこれが、公共インフラや市民インフラへの投資が、社会にもたらす変化なのです。

もし市民に与えられた選択肢が、娯楽施設のナイトクラブ――大音量の音楽、煙が充満した部屋、警備員がいてアルコールや広告に満ちた場所――だけだったらどうでしょう? 厳密に言うと、それは娯楽施設の問題ではないし、私は、娯楽施設そのものは大いに尊敬しているんですけどね……。

堤:大いに尊敬(笑)。いやでも、その話はぎくりとさせられますね。自由に意見を交わし合う場があれば、人々はちゃんと政治に参加する。それを台湾が証明している以上、私たちはフェイスブックやツイッターのアルゴリズム検閲だけに責任を被せて、文句ばかり言っていられません。

つまり重要なのは、実施する「方法」ではなく、実施する「場所」だと。

タン:まさにおっしゃるとおりです。どの区域かも重要ですよね。人は何かを学びたければキャンパスに行きますし、読書会か何かを開きたければ公立図書館に行くでしょう。でも、娯楽施設のラウンジとダンスクラブしかなかったら、それは選択肢ではありません。

堤:やはりここでもまた、「選択肢」がキーワード。GAFAに独占されない公共の場を作ることは、今後どの国にとっても、民主主義を持続可能にする公共投資として、予算に組み込む必要がありますね。

タン:同感です、とても重要なことですね。

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