解体工事が一時中断している戦国武将・織田信長の側室、吉乃(きつの)の墓がある久昌寺(きゅうしょうじ)(愛知県江南市)について、市は24日、全ての建物の保存を断念すると、市議会の全会派合同説明会で報告した。沢田和延市長は本堂の保存に意欲を示していたが、財政負担に対する懸念などから断念した。一部古材の活用は検討する。
吉乃は地元有力者だった4代生駒家当主家長の妹で、信長最愛の女性とされる。市は断念の理由として、公共施設の解体・統廃合を進める中で寺の維持管理は財政面から難しい▽市内の建造物文化財で市所有の例はない——ことなどを挙げた。
寺を巡っては、元文化庁職員で市文化財保護委員の長谷川良夫さん(90)が独自調査で、信長時代の天正年間(1573〜92年)の古材が残る可能性を指摘。9日に解体工事が始まったが、指摘を受けて急きょ14日から工事が中断されていた。市の依頼で再調査した長谷川さんは19日、本堂の天井裏などに天正期の木材を再利用した痕跡があるのを確認し「本堂だけでも保存すべきだ」と提言していた。
これに対し沢田市長は「本堂だけでも残す」と述べ、所有者の宗教法人役員で19代生駒家当主、生駒英夫さん(48)にもその方向性を伝えた。工事の中断は24日まで延長されたが、関係者によると、一部の市幹部から保存による費用負担などを不安視する声が上がり、断念を決めたという。
一方、市はこの日まで議会への報告などをしておらず、市議から「議会軽視だ」と反発する声が上がった。沢田市長は「最終的には生駒さんの判断。(保存費用は)億単位と聞き、私は非常に判断に迷った」と述べた。
生駒さんは取材に「お金がかかることは当初から分かっていたはず。市から保存の話を聞いた時は懐疑的だった」と話した。その上で「調査結果すら一切知らされておらず、市の判断の妥当性は分からない」としている。【川瀬慎一朗】
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