石綿被害救済 一部遺族に個別通知なし 国、委託業者確保できず

 アスベスト(石綿)が原因だと気付かずに死亡し、労災申請の時効が過ぎた労働者の遺族を救済する制度を巡り、厚生労働省は対象となりうる遺族に申請を促す「個別通知」を一部の地域でしか実施していなかった。支援団体や同省への取材で判明した。関連業務を委託する業者を確保できなかったことが理由。支援団体は「救済から漏れた遺族がいる可能性があり、国の怠慢だ」と批判している。

 石綿は吸い込んでから中皮腫や肺がんなどを発症するまでの潜伏期間が15~50年と長く、被害を認識していない患者や遺族も多いとされる。国は2006年施行の石綿健康被害救済法で、労災補償の請求権が時効となる死後5年を過ぎても、原則年額240万円の遺族年金か、1200万円の一時金を給付する「特別遺族給付金」の制度を設けた。

 2度の法改正を経て、給付金の申請期限は22年3月27日まで延長された。支援団体は「周知が十分ではない」とさらなる延長を求めたが、再延長されなかった。

 石綿関連疾患の中でも、中皮腫の多くは石綿が原因とされる。厚労省は死亡届などから中皮腫で死亡した人を調べ、給付金を受給していない遺族に申請を促す「個別通知」を計画。期限まで8カ月に迫った21年7月、調査業務を委託する業者を公募した。

 しかし、参加業者が集まらなかったとみられ、落札業者はゼロ。同年10月、全国を8地区に分けて入札をやりなおしたが、7地区では業者を確保できなかった。結局、関東甲信越地区(10都県)のみ業者が決まり、約430人の遺族に個別通知。厚労省の担当者は「(7地区では)落札にいたる業者がいなかったが、インターネットなどでも周知しているので問題はない」と説明する。

 支援団体「アスベスト患者と家族の会連絡会」(兵庫県尼崎市)の斎藤洋太郎事務局長は「本人や遺族は被害に気付きにくく、権利があるのに給付を申請していないケースは全国に多くある。国は制度を延長し、改めて被害を受けた可能性のある全ての患者、遺族に周知すべきだ」と話す。

 国会でも延長を求める声が高まり、5月17日の衆院本会議で申請期限を10年延長し、32年3月27日までとする改正法案が可決された。今後、参院で審議される。

 石綿は耐火性や断熱性が高い繊維状の鉱物。06年に国内で使用が原則禁止されるまで、建設現場などで幅広く使われた。厚労省によると、石綿と疾病の因果関係が認められ、20年度までに労災保険給付の支給決定を受けた患者や遺族は1万8427人に上る。
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