「正直に言ってほしい。それだけ告げました。妻はじっと結果を見ていましたが、『だまっていてごめんなさい』と。
僕には何の不満もない。ただあるとき取引先の男性に会ったと。
その人は彼女の中学時代の初恋の人だった。
それで彼女の心の中には彼の存在が焼きついてしまった。偶然出会って、また恋心がよみがえった、と」

妻は1度だけ関係をもって、初恋にケリをつけたかったのだそう。

「妻から関係を迫ったことにショックを受けました。好きな人がいれば僕や子どもたちを簡単に裏切るのか、と。

そう言ったら妻は泣きながら、『私の13歳のときの大事な思い出なの』と言いました」

“離婚するしかないの?”と言われたとき、ヒデキさんはドキッとした。そういう選択肢があるのかと改めて感じた。

「もちろん、その彼とはそれきり会っていないそうです。会うこともなくなったと妻は断言しました。そこは信じようと思いました」

運命として僕らは受け入れるしかない

問題はこれからのことだ。息子はかわいい。違和感はあっても、それは愛情を覚えないということではない。

「妻から『気持ちに余裕がもてなくてごめんね。息子のことを話さないと』と言ってくれたんです。
『僕にとって縁のない子でも、きみの子であることには変わりない。今はそんな気がする』と僕は言いました。
妻は『やっぱり離婚するしかないのかもしれないね』と。いや、そういう意味じゃないんだと僕はあわてました」

彼が言いたかったのは、これもまた縁なのかもしれないということだった。妻が浮気したのは事実だが、彼女は彼女の中に昔から巣くっている彼への思いを解放したかったのだろう。
結果として子どもが産まれた。

避妊はしていたし、妊娠する可能性の低い時期だったと彼女は言った。
それなのに妊娠したのだ。産まれてくる運命だったのだろうと彼は考えた。

「だったら妻が産んだ息子を受け入れてもいいんじゃないか。なんだかそんなふうに思ったんですよね」

「人として試されている」とすべてを受け入れた夫

妻は彼の目をまっすぐに見た。そして「愛せる?」と尋ねた。
愛していると彼は答えた。
妻は号泣したという。

「妻に対しては許す、許さないの問題ではないと思うようになりました。
妻がしてしまった行為を、今さら責めてもどうにもならないですから」

もともと仲のよかった夫婦に亀裂は入っていないのだろうか。

「妻のほうは僕にちょっと遠慮しているところがあるかもしれませんが、もうそういうのはやめようと言いました。
過去を振り返っても何も生まれませんから。生きていくということは、自分や大切な人たちに起こったことをどう受け止めていくかじゃないかと思うんです。
常に人として試されているような気がしますね」

彼はすべてを受けとめ、受け入れた。この先、夫婦関係や親子関係がどうなるかはわからない。
だがそのつど、起こったことを受け止めて受け入れていくしかないのかもしれないと彼は穏やかな笑みを浮かべた。

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