安彦良和監督「オールドファンがお孫さんを連れて『ククルス・ドアンの島』を見に来てくれるのを期待しているんです。『ほら、これがガンダムだよ』って。最近の『ガンダム』は子どもさんが見たら戸惑うんじゃない?というのが多い気がするから」

私「いま頭の中で『ほらごらんペロ、あれが地球だよ』というセリフが再生されました」

1979~80年放送の「機動戦士ガンダム」第5話「大気圏突入」終盤で、避難民の老人スミスが初めて地球を見る宇宙育ちの孫ペロに語りかける名シーンです。宇宙戦争に巻き込まれた老人と子どもが、地球に降下するホワイトベースの窓から陸と海を目にし、それぞれ懐かしさと好奇心を抱く――。ファーストガンダムの世界観とテーマを象徴しています。

「闘いの場面が初めから終わりまで続くがそれは表面的なもので、闘いの裏側にはヒューマンドラマがあるね」と、取材者の私に語った年配のスイス人男性を思い出します。2009年のロカルノ国際映画祭で、初めて見た「ガンダム」の美点をずばり言い当てた1人の観客の言葉は、富野由悠季総監督にとっても映画祭の印象深い思い出となりました。

そのファーストガンダム第15話「ククルス・ドアンの島」を安彦さんが監督し長編映画にした「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」が、6月3日から公開されます。初めて企画を聞いた時「よりによってなぜククルス・ドアン?」と思った方は多いのでは? 私もそうでした。しかし映画を見て安彦さんの話を聞いて納得。なるほどこの1本でファースト全体を味わえる作りになっています。これがはやりのファスト映画?(違います)

「ファーストガンダムは、ホワイトベースのクルーたちを含めた名もなき小さな者たちが、とても大きな状況に放り込まれ、翻弄(ほんろう)されながら頑張るドラマ。彼らよりもっと小さな者たちを描く15話『ククルス・ドアンの島』は、そのテーマを突き詰めたようなドラマなんです」

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