ジョー・バイデン大統領は、3月半ばに「プーチンは権力の座にとどまることはできない」とコメントし、ロシアとの交渉をほぼ不可能なものにした。これはバイデンの失言だったのか、それとも熟考した上での発言だったのか──。地政学的リスク分析を専門とするコンサルティング会社「ユーラシア・グループ」の創設者で代表の政治学者イアン・ブレマーはこう話している。
「あれは公式発言ではありませんでしたが、大統領だけでなく、民主主義と自由を尊ぶあらゆる人の考えを反映しています。何の脅威でもなかった人口4400万人の国を攻撃し、その民間人まで殺害して破壊した指導者を、国際社会はどう迎え入れて再び対話できるというのでしょうか」
プーチン失脚の可能性は「あまりない」
──あなた自身、交渉の余地はほとんどないと指摘されましたね。
はい。でも私の指摘が流れを変えたわけではありません。バイデンがプーチンを「戦争犯罪人」と呼び、国務省もそのあとすぐにこの定義を繰り返し、状況の流れが一変しました。つまり「虐殺者との交渉はできない」という立場をとったわけです。
──けれども3月末のバイデンの演説のあと、ブリンケン国務長官は「アメリカはロシアに対して体制転換の戦略を持っているわけではない」と言いました。
「政権交代」と「ロシアを不安定化させるための努力」は異なります。後者は戦争開始直後から経済制裁でロシアを困窮させ、孤立させるという努力を通して実行されてきました。「プーチンは権力の座にとどまることはできない」とする認識は、この努力のなかの極端でありながらも不可欠な一部なのです。
一方、「政権交代」は1つの政治秩序全体の破壊を目的とした直接介入を前提にしています。でもそのようなことを私たちはしていませんし、それはアメリカの政策でもありません。とりわけ、核保有国に対してそのような政策はとりません。
──もし、ロシア指導部におけるプーチンの力を弱体化させることで指導部に変化を起こすことが狙いなら、バイデンの強硬な姿勢は、多くのロシア人の民族主義的な感情を煽りかねないのでは?
そうですね。けれどもプーチンは、ロシアが過去30年のあいだ受けてきた扱いに対して屈辱を感じてきた多くの国民から、幅広い支持を集めていました。それは、バイデンの発言以前からです。プーチン失脚の可能性はどれくらいかと問われれば、答えは「あまりない」です。可能性がないわけではありません。ただ、予想外の展開をみせている戦争への明らかな不満や当惑はあっても、プーチンが厳しい統制を敷く指導部の足並みが乱れている気配はありません。
──ウクライナの国境の外にも広がる可能性があるこの戦争を終わらせるためにも、この政治的行き詰まりから脱却する方法を見つけなくてはなりません。
欧州が受け入れなければならない現実は、三四半世紀にわたって享受してきた「平和の配当」は終わったということです。今後ロシアとNATO(北大西洋条約機構)の対立は、より深刻で不安定なものになり、それはまた多くのリスクを孕んだものになるでしょう。
──ロシアと交渉せずに、この戦争をどう止めるのでしょうか。
この戦争は終わります。ロシアがこの戦争を充分準備せずに始め、その後の作戦はさらにお粗末だからです。兵士たちはもう疲れています。南部の戦略拠点のいくつかを制圧したところで、作戦の第1段階は成功裡に終わったと彼らは主張するでしょう。けれども、それは平和を意味しません。これは紛争の凍結です。
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