ここのところを注意深く考えてみて気づいたんだけど,日本に起きたいろんな変化は,つきつめると3つの大変化に要約できる:労働力の拡大,移民流入と多様性の増加,国際的な安全保障領域でみずからを主張しようという意思,この3点だ.こういう大きな変化がただひとりの人間の手で起こったわけもない.でも,3つの変化はどれも,戦後日本で最長の任期をつとめた首相のもとで起きた政策の転換に直接にさかのぼれる.その人物こそ,安倍晋三だ.

2012年の暮れに安倍が首相の座についたとき(首相になるのはこれが2回目で,こちらの方がずっと影響は大きかった),彼が引き継いだのは深甚な苦難のさなかにある国だった.土地・株式バブル崩壊からは20年以上も経っていたけれど,00年代に少しだけ経済成長が息を吹き返した程度で,ずっとかつての水準にまで回復しないままだった.人口は急速に高齢化が進みつつ縮小し,生産性の伸びは停滞し,日本の代表的な旗艦企業の多くは世界市場のシェアを失なっていった.これらすべてが,大きな要因になっていた.そして,2011年には大災害がおきた――大地震と大津波でおよそ1万6000名もの人々が亡くなり,原子力発電所は破壊された.ひとつの都市が被曝し,原子力発電に対する反発が人々の間に広まった.

安倍は,この船を建てなおすのをみずからの課題にすえた.その手段のひとつが,「アベノミクス」という大胆な経済改革パッケージだった.さらに,水面下でもっと目立たず進められた施策もあった.そちらの方が,最終的にはもっと影響が大きい.でも,それで終わりじゃない.安倍は他にも課題を設けていた――日本の戦後平和主義を捨て去り,日本を「普通の国」にもどして世界の安全保障枠組みのなかで地歩を占める,という課題だ.

日本の外国向け新聞に携わっている人たちの多くは,この後者の目標をみてすぐさま安倍のことをファシスト判定した(ところで,日本に関するニュースでああいった日本の外国向け新聞を頼りにしているアメリカ人は,あまりに多すぎる).でも,実際には,安倍は市民的ナショナリストだ――安倍は,自分にできる方法ならなにを使っても自国をいっそう強くしようと望んでいる人物だ.現に,安倍は日本をいっそう強くした――女性の雇用を促進し,日本をさらに多くの移民たちに開いた.それに,その過程で日本をいっそうリベラルにすることもしばしばだった.

安倍についてもっと読みたければ,トビアス・ハリスによる伝記『聖像破壊者:安倍晋三と新しい日本』(邦訳なし)を強くおすすめする.安倍の在職期間は8年に過ぎなかった――日本の基準では長期だけれど,合衆国の基準だと平均的だ.でも,彼が首相の座を降りたとき,日本は大きく変わっていた.いろんな点で,いまや日本は「安倍の日本」だ.そして,これから数十年にわたって「安倍の日本」でありつづけるだろう.

ノア・スミス「安倍晋三のもとで大きく変わった日本」(2022年6月4日)
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