現在30歳のモーガン・カーティスは、彼女の6世の祖（ひいひいひいひいおじいさん）から
「搾取のもとで富を築いてきた」と、語っている。
18世紀にヨーロッパからアメリカへやってきた6世の祖は、現在のニューヨーク州で紡績工場を営み財を成した。その次の5世の祖は銀行員として働き、その資産を鉄道事業に投資したことで富を増やした。母方の5世の祖もまた、キューバで広大なサトウキビ農園を経営し、莫大な財を成した。
いずれも「奴隷制や労働者からの搾取に関連するものです」。
その恩恵を受けて裕福に育った彼女は現在、カリフォルニア州北部にあるコミュニティ農園で約40人の人々と共同生活をしている。
いまの暮らしに必要なのは「年間300万円程度」。彼女は親から相続した資産は全額、気候変動や人権の社会改革団体に寄付することで「再分配」した。また、自身のコーチ兼コンサルタントとしての稼ぎの半分も同様の団体に寄付し続けているという。
彼女は自身が相続した富を「再分配」する理由について、過去を振り返りながらこう述べている。
私が気候変動に関心を寄せるようになったのは10代の頃。大学では環境工学を学び、在学中は石油関連企業に対する抗議活動も積極的に行った。車も手放し、そのことを父親に話すと「（車を）売ったお金は株に投資するといい」と勧められた。そこで、ソーラーパネルの会社を支援しようと、投資講座を開設するために銀行へ向かった。すると、口座はすでに開設されていた。彼女の親がすでに彼女名義で株式を購入していたのだ。
その価値は日本円にして約4600万円相当だった。「親が私名義で購入していた株は、まさに私が抗議活動を行っていた企業のものだった」
彼女の父親は「うちのおじいさんは石油関連の会社にたくさん投資していた。とても儲かったみたいだ」とも話していたという。
「私は、罪悪感や恥、怒りを覚えました」
彼女がこの投資口座のお金に自由にアクセスできるようになったのは2020年。その頃には8000万円以上に増えていた。彼女はこのお金のうち3分の2は「すでに再分配済み」だと語っている。
アメリカのスーパーリッチな18〜35歳のコミュニティ「リソース・ジェネレーション」は、90年代の設立時から「富、土地、権力の公平な分配に取り組んできた」組織だ。
「ガーディアン」によれば、同組織は近年、急速に成長しているという。会員は2019年から21年にかけて65％増加し、昨年、800人以上の会員が社会正義運動に1億ドルを寄付することを誓約した。
イギリスにも「リソース・ジャスティス」という同様の組織がある。創設は2018年。創設者のひとりであるレオニー・テイラー（31）は、「私の父は石油事業で富を築いた」と明かす。
「私は不当なシステムで儲けたお金の恩恵を受けて育った。そのことに大きな罪悪感がある」と、彼女もまた罪の意識を明かしている。
同紙によれば、同組織はメンバーであるスーパーリッチの若者たちに「再分配」についての6ヵ月のプログラムを提供している。その内容は「裕福な人々が不平等について学び、それぞれ個人の話を共有し合う」もので、搾取の恩恵を受けたという罪悪感や恥をひとりで抱えるのではなく、その辛さのベクトルを社会正義のための行動に向けるのが最終的な目的だという。
前述の2人は「罪悪感は、富を再分配するという行動を起こすのに有益な感情だった」と語っている。
だが、製薬業界と不動産で働いていた祖父から1億円以上を相続したミレニアル世代の男性は、「僕の場合は、罪の意識は必ずしも（再分配という）行動には結びつかなかった」と述べている。
彼にとっての罪の意識は、搾取で得たお金の恩恵を受けたことよりも「他の人たちが朝から晩まで働かなければならないのを目にすること」。彼が相続した莫大な富は、彼にとって「働く士気を保つのを難しくするもの」だそうだ。
「たくさん寄付はするよ」。ただ、彼にとってのモチベーションは「そうすれば、（お金がなくなって）働く意味を得られるから」だと、赤裸々に語っている。
https://courrier.jp/cj/291131/
