どうして?
ぼくにはそもそも、新卒時に「ふつうの」就職活動をした経験がなかった。世間でよく聞かれる「書類選考で落ちつづける」という、就活時の経験がない。いわば免疫がなかったのだ。だからぼくは、自らの「落選つづき」に戸惑ったし、めちゃくちゃ落ちこんだ。自分は世間から必要とされていないのではと疑心暗鬼になった。 これはのちに、とある先輩エージェントから聞いた話。ぼくの学歴・職歴は転職においてはやはり「不利」ということだった。
「特定の教団をイメージさせる一貫校の出身で、その宗教団体に『そのまま』就職して、外部の企業で働いた経験がまったくない。しかも正木くん(=筆者)は、転職時点で35歳を超えていた。この条件だけを見たら、企業の人事部が『この人は35歳まで宗教学校の延長で来たんだろうな』と想像する可能性はかなりあるだろう。書類選考は基本的にリスクを排除するために設けられるものだから、書類は通りにくいかもしれない」(あくまで、ぼくの場合についてではあるが……)
「あなたは布教でもしていればいいんじゃないのかね?」
とはいえ、天は味方にもなってくれた。ある日、一社だけ書類が通過したのである。思わず小躍りするぼく。入念に準備をし、初の転職面接に向かった。ところが、面談の場で瞬時につまずいてしまう。
「正木さんは新聞記者をしていたという話だけど、35歳を超えて、マネジメント経験はないんだよね。プレイヤーとしてKPIはどう追っていたのかな」
「はい……。えっと、お聞きしてもよろしいでしょうか。KPIって……何ですか?」
暗雲がたちこめる。苦笑いをする面接官。そのあとも二、三、質問されるものの、答えがおぼつかない。
「宗教法人の職員として磨いたスキルで、わが社で活かせそうなスキルは?」
「正木さんは、わが社でどんな価値発揮ができるのかな?」
問いに対し、しどろもどろになるぼく。それを見て、面接官が笑みを浮かべた。そして決定的な一言を放った。
「正木さんは……布教活動でもしていればいいんじゃないのかね?」
これはショックだった。社屋をあとにすると、撃沈したぼくに冷たい雨がふりそそいだ。自然と涙が出た。そんなとき、携帯電話が鳴った。エージェントからのひさしぶりの連絡だ。じつはエージェントのほうでも、ぼくの転職先を探すのに相当苦労していたようだった。しかし「ついに見つかった」と彼は言う。胸が熱くなった。
「正木さん、この会社なら、これまで培ったスキルが活かせそうです」
「嬉しいです! どちらの企業さまでしょうか」
「宗教法人○○の専従職員です」
別の宗教法人……職務的にいえば「競合」やん!
ぼくの血の気が引き、寒さで体が震えた。
正木 伸城(ライター)