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83歳、余命2カ月だった彼女が最期の最期に味わった奇跡~祖母の家で孫2人が挙げた「家族だけの結婚式」
終末期医療患者を中心に、病や障がいを抱える人の願いをかなえる付き添い看護サービス、「かなえるナース」。この事業を運営する代表の前田和哉さんによる初の著書、『自分らしい最期を生きた人の9つの物語』が6月に刊行された。
本書は、現役の看護師でもある前田さんがこれまでに出会った、「自分らしく悔いのない最期」を送った9人のドキュメンタリー短編集。自分や自分の大切な人がいつかこの世を去る時に、「後悔しないためのヒント」が実話を通して綴られている。
多くの終末期患者に寄り添ってきた前田さんに、「最期の日々を悔いなく生きるためのヒント」について、全3回でインタビュー。第2回は、「かなえるナース」を通じて人生最期の願いを叶えた、終末期患者とその家族のストーリーを紹介する。
1回目:『「最期にビール飲みたい」願い叶えた看護師の想い』
■余命わずかの祖母に僕たちの結婚式を贈りたい
重い病を抱えているために、子どもや孫の結婚式への出席をあきらめざるを得ない。そうした病気や障がいを持つ人たちが、大切な家族の結婚式に立ち会えるように――。
「かなえるナース」では、外出時の付き添い看護をはじめ、結婚式の衣装の手配や着替え、記念撮影、式のプログラム作成などプロデュースも手がけている。
2020年の2月中旬。この事業を運営する前田和哉さんのもとに、ある依頼が舞い込んだ。
「母が末期の肺がんで余命1、2カ月と言われているんです。母に息子たちの結婚式をどうしても見せてあげたいので、手伝っていただけませんか?」
83歳になる女性・香山さん(仮名)の娘さんからの依頼だった。詳しく話を聞いてみると、「長男・次男の2人の兄弟が奇跡的にも同時期に結婚が決まり、合同で結婚式を挙げることになった」という。
だが、時期的にコロナ禍ということもあり、結婚式場で挙げるべきか、一家の間で悩んでいた。そこで新郎新婦たちが、「やっぱり思い出のある祖父母の自宅で結婚式を挙げたい。おばあちゃんに一番に喜んでもらいたい」と思いを固め、「かなえるナース」に相談を持ちかけたとのことだった。
■私もメーキャップしてもらえるかしら?
香山さん一家の熱い思いを受け取り、「自宅だからこそ味わえる最高の式を演出しよう」と奮起した前田さん。2週間後に決まった式の本番まで時間がないため、急ぎ香山さんの自宅に打ち合わせに出向いた。すると、想像以上にご本人が元気そうなことに驚いたという。
「歩くと息切れはするようですが、背筋もピンとしていて、話す声もハキハキとされていました。お話を聞くと、長い間、NPO団体の代表として国際協力の仕事をされていたとのこと。堂々としていてどことなく存在感があるのは、長年トップの立場で活躍されていたからかと合点がいきました」
お孫さんたちの結婚式を間近に控え、うれしそうな様子の香山さん。打ち合わせの中で、思わぬ一言が飛び出した。
「結婚式当日は、私もメーキャップしてもらえるのかしら?」
その一言を聞いて、「ご本人にとって身なりを整えることはとても大事な望みなのだ」と理解した前田さんは、当初の計画にはなかった、香山さん専属の出張ヘアメイクを提案。しかも、花嫁だけではなく、香山さんにもブーケを持ってもらい、より華やかな装いで式に出席してもらうことにした。
打ち合わせ時は元気そうに見えた香山さんだが、がんは着実に進行していた。日に日に弱っていく中、待ちわびていた結婚式当日を迎えることができた。
自宅での開催とはいえ、1日がかりのイベントとなる。香山さんの体力を温存するため、メイクはベッド上で寝ながら行うことに。ベースメイクで肌のツヤと血色が増すごとに、香山さんの表情がいきいきとしていく。
グレイヘアをふんわりとセットし、色鮮やかなマゼンダ色のリップをつけると、病の影を微塵も感じさせないほど美しいマダムへと変貌した。
その姿に歓喜の声を上げたのが、新郎の兄弟2人。というのも、「自宅での結婚式を特別のものにしたい」と考えていた前田さんは、香山さんと新郎新婦がドレスアップする過程をお互い見せないように演出していたのだ。
新郎2人が身支度を終えたばかりの祖母の部屋を訪ねると、「わぁ~おばあちゃん、すごい素敵!」と感動の拍手。
香山さんはタキシード姿の兄弟のもとに駆け寄り、「2人ともカッコいいね。おばあちゃん、感激だよ」と兄弟の肩を抱き、しばらくうつむいたまま目に涙をためていた。
■なつかしい祖父母の家の食卓での結婚式
式のメイン会場であるダイニングキッチンに、新郎2人が祖母を連れて入場すると、待ち構えていた家族や親戚