異形のトリプル介入も 当局支配の国債・株式・為替市場
仮に実施されるなら、海外の当局者や市場関係者は、当局に管理された日本市場の異形さを改めて認識するのではないか。政府・日銀が同じ日に国債、株式、為替の3市場に介入するトリプル介入のことだ。実施の可能性を無視はできなくなっている。
すでに国債と株式へのダブル介入は起きている。最近では6月17日だ。日銀が、決まった利回りで国債を無制限に買う指し値オペを実施し、上場投資信託(ETF)も購入した。
これに為替介入も加わればトリプルになるが、急速な円安を受け、6月10日には財務省、金融庁、日銀の3者会合が円買い示唆の声明をまとめている。高インフレ退治に向けドル高を望む米国の理解は得にくいだろうが、米国に支持されなかった介入実施の前例はある。日本にとって最後の介入となった2011年夏~秋の円売りがそうだ。足元で一時1㌦=137円台に下落するなど円売り圧力は根強く、当局の対応への関心は強まりそうだ。
もちろん日本の当局の3市場への関与自体は今に始まった話ではない。同じ日に日銀が国債の買い入れをオファーしETFも購入する一方、政府が為替介入を決めたケースは11年にもあった。ただ当時と今を同列に扱うのは適切ではない。理由は2つある。
第1に、日銀は債券市場に当時より深く関与している。16年に長期金利(10年物国債利回り)にゼロ%程度という誘導目標を設け、国債相場をコントロールする金融政策を始めたからだ。現在の欧米では見られないことだ。
最近では、金利上昇圧力が強まる中、長期金利変動容認幅の上限(0.25%)を死守する国債買い支えに必死だ。日銀が持つ国債はついに発行残高の5割を超えた。
第2に、11年当時の為替介入は円売りだったのに対して、今の焦点は円買いだ。巨額の国債購入で金利上昇圧力を抑える一方、自国通貨も買い支えるとなると、矛盾した対応になる。通貨安が嫌なら金利は上げた方がいいはずであり、国債と円を同時に買うのは無理な市場管理という印象をより与えやすいだろう。
ちなみに、21年春の日銀政策修正を受けて大きく減ったETF購入も再び増えつつある。21年に1兆円を割り込み前年より8割以上縮小していたが、22年1~6月は5600億円。このペースが続けば年1兆円を超える。「外国人投資家の売りが増える中、日銀の買いは存在感を持ち続けている」(楽天証券の窪田真之氏)。金融政策でETFを買っている例は他の主要中央銀行にはないが、日本では午前の東証株価指数(TOPIX)が2%超下落すると日銀が買うパターンが定着している。
仮に今後トリプル介入があるとすれば、例えばこんな場合だろう。
米国の大幅利上げを受け米株価が急落。日本の株価も大きく下げたことで日銀がETFを買う。一方、日米金利差拡大で円の下落も進行。円安防止へ日銀が金融政策を修正するとの観測から日本国債の売り圧力も強まる。そこで日銀は国債を買い支え、金利上昇を抑える。それが日米金利差への関心をさらに強め円は一段と下落。政府が円買いで対抗する。
本来、市場は経済実態や企業価値などを反映して動く。マーケットの警告に耳を傾け、経済政策や企業経営を適切に運営するのが望ましい。必ずしもそうなっていないのが日本だろう。例えば日銀の国債買いで長期金利が低位安定してきた結果、財政の規律は緩みがちだ。
ところが、長短金利操作付き量的・質的金融緩和という日銀の政策を知っている国民は14%にすぎないという(日銀調べ)。仮にトリプル介入が実施された場合、それが先進国としてかなり異例な対応である点を認識する国民も少ないということだろうか。もしそうなら、当局による異形の3市場支配は続きやすくなるかもしれない。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD30D3L0Q2A630C2000000/