暗号資産(仮想通貨)投資家は保有資産への熱心な姿勢で知られる。しかし、仮想通貨ブローカー、ボイジャー・デジタルの経営破綻は業界に動揺を広げ、こうした投資家の信認にもほころびが生じつつある。
米連邦破産法11条に基づく会社更生手続きを申請したボイジャーの計画では、同社の口座保有者は完全な回収を見込めない可能性が明らかとなり、仮想通貨下落で既に痛手を負っていた投資家は新たな心配を抱えることとなった。
仮想通貨トレーダーは価格急落に見舞われても、長期保有が目的であって、相場はやがて回復が期待されるとして、しばしば気に留めない考えを示してきた。だが、大規模なプラットフォームの安全性を信じ退職後に備えた蓄えや住宅購入の頭金、緊急時のための資金などをボイジャーに託していた投資家にとって、こうした回収不能のリスクは警鐘を鳴らすものだ。
アーロン・セレニカさん(21)は昨年秋に複数の友人からビットコインについて聞かされ、「暗号資産に夢中になった」と話す。コネティカット大学の暗号資産クラブにも加入し、大学の野球の試合でボイジャーの広告を目にしたセレニカさんは結局、約1万5000ドル(約204万円)相当のビットコインをプラットフォームに投資した。
セレニカさんの保有残高は現時点で6900ドル程度に目減りしているが、それさえも回収することができるか疑問に感じている。暗号資産投資にはリスクが伴うことは分かっていたが、プラットフォームの崩壊は全く予想していなかった。
「強盗に遭った気分だ」と話すセレニカさんは、「こんなことが合法であるのが理解できない。別のプラットフォームに投資することもない。暗号資産はもうこりごりだ」と打ち明けた。
過去最高値から70%近く下げたビットコインをはじめとする最近の仮想通貨下落で、関連企業の経営には困難が広がっている。貸付業者のセルシウス・ネットワークやバベル・ファイナンス(貝宝金融)、ボールドなどは顧客による引き出しを凍結した。コインベース・グローバルなどの企業は人員を削減している。ボイジャーの破綻は「仮想通貨の冬」と呼ばれる現状の最新例と言える。
FBBキャピタル・パートナーズの調査担当ディレクター、マイク・ベイリー氏は「この種の下振れリスクは猛烈だ」とした上で、「投資家がこのような損失を被った場合、債券価値がゼロとなったケースと同様に、システムが壊れたように感じるだろう」と指摘。そうした印象を抱くことで撤退を望むムードになるのではないかとコメントした。
原題:
‘I’m Done With Crypto’: Voyager Bankruptcy Rocks True Believers(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-07-08/REOCMUDWLU6C01