ウクライナ口実に「火事場泥棒」をもくろむ政府
入管法“改悪案”再提出の動きに厳しい批判
2022/7/9 10:30 (JST)
ウクライナから避難した人たちの保護を口実にした火事場泥棒じゃないか―。
昨年、廃案になった入管難民法改正案を再び国会に提出する動きに批判の声が上がっている。ウクライナでの戦争と日本の入管政策はどうつながるのか。背景を追うと、いくつもの疑問が浮かび上がってきた。(ジャーナリスト、元TBSテレビ社会部長=神田和則)
▽「準難民」
政府は法案再提出の理由を次のように主張する。
難民条約における「難民」の定義は「人種、宗教、国籍、特定の社会集団への所属、政治的意見を理由に、自国にいると迫害を受ける恐れがあるという十分に理由のある恐怖を有するため国外に逃れた人」である。
国家間の紛争から逃れたウクライナの人々は条約上の難民に当たらず、難民として保護されない。廃案になった改正案には、紛争避難者を「補完的保護」の対象とする規定があり、難民に準じた扱いを可能にする。この「準難民」と認定されれば定住資格などの保護が受けられる。
そのうえで古川禎久法相は4月の記者会見で「法務省としては、同法案(注・廃案となった改正案)の一部のみを取り出すのではなく、現行法下の課題を一体的に解決する法整備を進めてまいる所存です」と発言、準難民制度の創設だけでなく、元の改正案で問題とされた条項も併せて復活させることを示唆した。
▽難民申請中でも送還
改正案はどのような“問題条項”を含んでいたのか。主な点をおさらいしておく。
現行法では難民認定の手続き中は送還が停止されるが、改正案はこの規定を取り払って3回目以上の難民申請者の送還を可能にする。
これに対してUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が「重大な懸念」を表明するなど国際的にも強い批判の声が上がった。
廃案が決まった後の昨年9月、東京高裁が言い渡した判決は注目に値する。東京入管は難民不認定を通知したスリランカ人原告について、裁判を起こす時間的猶予や外部との連絡機会を与えないまま、通知の翌日早朝、強制送還した。高裁はこれを「裁判を受ける権利を侵害し憲法違反」と断じた。
国側は、原告が難民認定制度を乱用していると主張したが、判決は、乱用かどうかも含めて裁判所が判断するべきで、司法審査の機会を実質的に奪うことは許されないと一蹴した。難民認定申請者の保護・救済を求める場を広く認めようとする趣旨と受け止めるべきで、3回目以降の難民申請者を送還してしまうなら、申請回数という外形的理由だけでその機会を奪うことになる。
国は上告せず判決は確定した。改正案を再上程するのなら、司法判断を無視するのに等しい。
また改正案が、退去強制命令を拒否した場合、刑罰を科すとしたことも、重大だ。
「難民鎖国」の日本では、本来、難民と認められるべき人が認められていない。国に戻れば命の危険があると訴える人や、子どもが日本で育っている人、祖国には生活基盤がないといった人たちは、命令が出ても帰国できない。こうした人たちが犯罪者となる。刑期を満了して出所しても在留資格がない状況は変わらない。再び入管施設に収容される。そこでまた帰国を拒否して刑務所に送られる…。昨年の国会審議で参考人を務めた児玉晃一弁護士は「身体拘束の無限ループに陥る」と警鐘を鳴らす。
※以下ソース※
https://nordot.app/912528606324129792?c=39546741839462401