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東電旧経営陣に13兆円賠償 なぜ責任認定、判決の影響は

東京電力福島第1原子力発電所事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁は13日、旧経営陣4人に対し、東電に計13兆3210億円を支払うよう命じる判決を言い渡した。裁判の賠償額としては過去最高とみられる。請求額は22兆円だった。旧経営陣の責任はなぜ認定され、巨額の賠償が確定したらどうやって支払うのか。3つのポイントから読み解く。
(1)なぜ旧経営陣の責任を認定した?
裁判は原発事故の翌年、2012年に株主48人が起こした。東電の勝俣恒久元会長(82)ら当時の役員が任務を怠り、津波対策を講じなかったために事故が起きたとして、勝俣氏ら5人に対し、事故で東電が被った損害を補塡するよう求めた。

争点は政府機関が02年に公表した地震予測「長期評価」に基づき巨大津波の予見が可能だったかや、浸水対策などで事故を防げたかどうかだった。予見可能性などを巡るこれまでの司法判断は分かれている。

勝俣氏ら3人が強制起訴された刑事裁判では、一審・東京地裁判決は長期評価の信頼性を認めず全員を無罪とした。最高裁は6月の避難者らによる集団訴訟の判決で、長期評価の合理性は認めつつ、対策をしても事故は防げなかったと結論付けた。

一方、今回の判決は長期評価について「科学的信頼性を有する知見」と認め、津波対策が必要だったと判断した。東電側は08年、長期評価に基づき福島第1原発に最大15.7メートルの津波が到達すると試算していた。当時の旧経営陣の対応を検討し、「最低限の津波対策を速やかに指示すべき取締役としての注意義務を怠った」と指摘した。

その上で、主要な建屋などで浸水対策を実施していれば「重大事態に至ることを避けられた可能性は十分にあった」として、旧経営陣5人のうち4人に賠償責任があったと結論づけた。原発事故を巡る旧経営陣の責任を認めた判決は初めてだ。

一審は13兆円の賠償を命じたが、訴訟は控訴審で続くとみられる。巨額の賠償責任を巡る訴訟の行方は、まだ見通せない。
(2)賠償額の13兆円はどう算定?
判決は巨額な賠償をどのように算定したのか。3つの東電の損害の合計額とした。1つは、廃炉・汚染水対策費用に支出した約1兆6150億円だ。2つ目が被災者への損害賠償費用の計7兆834億円。3つ目が除染・中間貯蔵対策費用の4兆6226億円だった。旧経営陣4人が取締役としての注意義務を怠ったことによる損害と認定した。

今回の訴訟で注目されたのは、国内で過去最高額とされる22兆円という巨大な請求額だった。国が見積もった廃炉や被災者への賠償などを加え、事故処理費用と同水準に膨らんだ。

損害賠償を求める一般的な民事裁判では、請求額に応じて訴訟費用も高くなる。例えば訴訟額が1億円の場合、提訴には約30万円の印紙が必要だ。今回の訴訟に当てはめれば、約220億円かかる計算になる。一般的に裁判で勝てば、訴訟費用は相手方の負担となるが、負ければ訴訟費用は戻ってこない。

ところが、会社の損害回復を目的に、株主が会社に代わって役員らの責任を追及する株主代表訴訟は、「財産権上の請求ではない」ことを理由に1993年の旧商法(現会社法)改正で手数料が下げられた。請求額にかかわらず、一律1万3千円で訴訟を起こせるようになった。

訴訟費用の負担が少ないことで、請求額も高額になることが多い。過去には旧蛇の目ミシン工業(現ジャノメ)やオリンパスの旧経営陣に対し、500億円超の支払いを命じる判決が確定した例がある。