プレステの「父」とされている開発者の久夛良木健さんが、4月に近畿大学の情報学部長に就任した。なぜ、大学教育に力を入れようとしているのか。71歳になってからの新たな挑戦について聞いた。
プレステの「父」とされている開発者の久夛良木健さんが、4月に近畿大学の情報学部長に就任した。なぜ、大学教育に力を入れようとしているのか。71歳になってからの新たな挑戦について聞いた。
日本の教育の弊害を実感
――久夛良木さんは22年4月に近畿大学情報学部長に就任しました。これまで大学では09年から立命館大学などで教えてこられましたが、なぜ今、近畿大学の学部長として教育に携わろうと決意したのでしょうか。
大学で10年以上教えていますが、その中で日本の教育を変えたい、という思いも強く抱くようになりました。
日本はもともと江戸時代の寺子屋教育をはじめ、世界的に見ても自由な教育先進国だったと思います。ただ特に戦後になってから、決まったことは決まった手順で教え、基本的に答えが一個しかないものを○×式で選ばせるとか、そういう教育をしてきました。要するに、みんな同じ手順で同じことをチームでやるための教育をしてきたわけです。
もちろんこうした教育が戦後、自動車王国や家電立国を築き上げていく中で、一役買ってきた側面はあります。みんな同じルールの中でちょっとずつ改善していくことをやるためのワーカーを育成するためにです。でも、このやり方は世界の潮流から見ると、限界に達しています。
――90年代以降、失われた30年の原因ともいわれていますね。なぜ今までのやり方が通用しなくなってしまったのでしょう。
戦後の大量生産、大量販売、大量消費の時代が続いていたら、今までの教育のやり方でも通用していたかもしれません。しかし、この流れは世界全体の歴史の中で、ごく一部の期間にしか起こらなかったことなのです。一方で、こうした教育の影響は、少なくとも50年間は続いてしまいます。
これを痛感した例が一つあります。ある大学で私は1限から5限までぶっ続けでイノベーションについて教えていたのですが、最後に学生からこんな質問が飛んできたんです。「先生、私たちが定年になった時に年金は、もらえるんですか」と。それも一人ではなく、何人もの学生が同じ悩みを抱えていました。
こういう、人と同じように真面目に働いた先に未来はあるのかという悩みを抱いていること自体に、教育の弊害を感じさせられました。親世代の影響も大きくあるのだと思います。
(後略)
https://www.itmedia.co.jp/business/spv/2207/22/news042.html