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入院できず、転院できず…新型コロナに感染した高齢の父、待機中に容体悪化し帰らぬ人に。遺族が語る割り切れぬ思い
新型コロナウイルス感染者の国内死者が累計3万人を超えた。鹿児島県内は17日時点で188人の死亡が確認された。「もっと早く入院できていれば」「なぜ感染したのか」−。遺族は今も割り切れない思いを抱える。高齢の父親を今年亡くした2人が南日本新聞の取材に応じ、複雑な胸の内を明かした。
「待機の指示によって必要な医療を受ける権利を奪われた。容体が悪くなってから運んだってどうしようもない。行政の対応は後手後手だ」。鹿児島市の男性(53)は、ぶつけようのない怒りに声を震わせた。
父親は入所中だった高齢者施設でコロナに感染した。施設の話では、前日に職員の感染が分かり、保健所から「しばらく施設内療養を」との指示があった。容体の急変時や命に関わる場合に入院になるという。
過去に脳梗塞を患った父親は失語症で意思疎通が難しい。ビデオ通話で連絡を取ると、せきをしてぐったりし、症状が悪いように見えた。保健所や施設に何度も入院の必要性を訴えたが希望はかなわなかった。
1週間後、往診した医師から「肺炎を起こしている」と報告があった。しびれを切らし、入院調整をしている県などに直接連絡。懇願してやっと入院が決まった。「自分でここまで動かないと搬送できないのか」
しかし搬送先の医師からは「初期の段階でなく治療薬も効かない」と言われた。入院から3週間後、酸素投与が必要な中等症の父親は苦しさに耐えながら息を引き取った。85歳の誕生日翌日のことだった。
急変した時に延命治療をしますか−。感染判明の翌日、施設を通じて保健所から聞かれたことが引っかかっている。「基礎疾患がある弱い人間こそ優先して対応すべきだ。行政は命の大切さをどう考えているのか」。事務的な対応に不信感が残ったままだ。
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県内の50代女性は、内科病院に入院していた79歳の父親を亡くした。基礎疾患で重症化リスクがあるため、主治医は専門病院への転院が必要として保健所に連絡したが、受け入れ先はすぐに見つからなかった。
「深夜帯は受け入れが少ないので明日再度連絡を」「県の医療チームに相談する」−。最終的に保健所から搬送先が決まったと連絡があったのは最初の相談から24時間後。父親は既に意識不明の状態だった。
転院先に慌てて駆け付け、モニター越しの父親に心が痛んだ。「そばで声をかけてあげられなかったのが一番つらかった」。転院から約4時間後に死亡。コロナ感染で急激に状態が悪化したと説明を受けた。
一方、転院先の医師は「意識を失っているとは聞いていなかった」とも言った。「病院、保健所、県の連携はうまくいっているのか」。入院調整に対する疑念は拭えずにいる。
入院中の父親がなぜ感染したのか。病院から詳しい説明はない。転院までの経過については、何度も要望してようやく文書で回答があった。保健所にクラスターの有無を尋ねても、「感染経路は分からない」と冷たくあしらわれた。「どこも情報を伏せようとする。何も分からないまま家族の死を受け入れられますか」
転院先から24時間以内の火葬を求められ、葬儀はひつぎのない骨つぼだけのさみしいものになった。「とにかく悔しい」。女性は父親のスマートフォンを手に声を詰まらせた。
■死者、年明け以降急増
新型コロナウイルス感染者で亡くなった鹿児島県内188人のうち、オミクロン株が主流となった年明け以降だけで122人に上り、全体の65%を占める。ほとんどが重症化リスクの高い高齢者だ。
県は3月末までに死亡した170人の統計情報を公表している。年代別では70代以上が89%で、60代15人、40代2人、20代と50代が各1人。基礎疾患のない人は2人いた。コロナが直接の死因はほぼ半数の91人。
県によると、確保病床への入院は優先度判断のために共通項目を点数化したチェックリストを活用。保健所から候補が挙がり、最終的に県のチームが必要性を見極めて医療機関と調整するのが基本となっている。
年明け以降の病床使用率は、まん延防止等重点措置が適用されていた2月18日の59.8%が最高。県は「個別の事案には答えられない」とした上で、「これまで入院が必要な人は入院できている」とする。ただ、医療機関の職員の感染で人材が足りなかったり、当直態勢だったりで調整に時間を要する状況はあり得るとしている。