安倍元首相の銃撃事件の容疑者をめぐり、その動機やこれまでの人生が断片的に報じられ、なぜ事件を起こしたのか、国民的な関心事になっている。

テレビや新聞、インターネットでも、たくさんの情報が流れ、研究者や医師、弁護士といった専門家から、元政治家や芸能人まで、容疑者の人物像について、様々な立場の人たちが語っている。

ただ、「専門家」のコメントの中にも、「不遇な幼少時代を過ごした人たちは、『歪んだ特権意識』を持つようになりがち」(精神科医)、「幼稚なまま育ってしまったマザコン」(弁護士)といった見方もあり、犯罪心理学が専門の原田隆之・筑波大教授は、「まだわからないことも多い中で、『専門家』を名乗る人たちの断定的な『診断』が、マスメディアの作ったストーリーに沿って流れることに危機感を覚える」と語る。専門家とメディアの関係について、詳しく聞いた。(ライター・今川友美)

●マスメディアと「専門家」の間で起きる「悪循環」

原田氏は、今回の事件に限らず、犯罪の容疑者をめぐる報道などでは、「専門家」を名乗る人たちによる、無責任な情報が流れ続けてきたとして、「マスメディアの責任は重大だ」と語る。

「専門家が述べることは正しいであろうという先入観や信頼感を持って人々は聞くわけなので、一般人が発言するよりも重い責任がある。責任というのは、専門性と表裏一体でなければならないが、『専門家』がメディアに出るとなると、無意識なのか意識的なのかはわからないが、制作側のニーズに応えようとするサービス精神で、ついつい口がすべって余計なことを言ってしまう面が見受けられることもある」という。

原田氏によると、「専門家」のなかには「論文は書かずに、世間受けする一般書ばかりを書いたり、ネットなどで評判を集めたりすると、マスメディアから仕事が舞い込んでくると考え、自分の専門性よりも、マスメディア受けするほう、名前が売れるほうに行ってしまう人も残念ながら存在する。

そうした『専門家』はテレビを作る人たちのニーズにもマッチしているので、そのほうがどんどん出演しやすくなり、『専門家』のほうもまた呼んでもらおうと、番組が描くストーリーに合ったようなテレビ受けするようなことを言ってしまうという悪循環が起こっている」と説明する。特に原田氏は、今回、NHKを含めた影響力の非常に強いメディアで見られたことに危機感を抱いているという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/832de62635ed06aa863df46da718e2f0c1ac771e