安倍晋三元首相が凶弾に倒れた事件から29日で3週間となった。民主主義の根幹を揺るがす蛮行だが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関する情報が出てくるにつれ、山上徹也容疑者(41)=殺人容疑で送検=への同情にとどまらず、SNSでは共感を示す声もある。専門家はこうした傾向が模倣犯を出現させる危険性があると警鐘を鳴らす。

【写真】山上徹也容疑者が送ったとみられる安倍元首相の殺害を示唆する手紙の写し

山上容疑者をめぐっては、母親が旧統一教会に入信したことで実家が破産し、進学を断念した経緯などが明かされた。だが、教団の友好団体にメッセージを送った安倍氏を狙ったという動機には飛躍があり、犯行を正当化するものは何もない。

ところがSNSの一部では「(境遇に)シンパシーを覚えてしまう」など同情的な声や、「英雄だ」との称賛、「塩顔でかっこいい」とアイドル視するかのような投稿も。まだ起訴もされていないのに「減刑署名」まで行われている。

立正大学の小宮信夫教授(犯罪学)は、「潜在的に社会に不平不満を抱える人物が、事件を起こして不満を晴らす価値観を学習してしまう恐れがある。特にSNSでは自分が見たい情報を優先的に取り込む傾向があるので、山上容疑者に共感を持つ人物同士がコミュニティーを作る可能性がある」と分析する。

兵庫県明石市の泉房穂市長は27日、殺害予告メールが届いたと発表した。山上容疑者の名前を挙げ「参考にして自作銃を作った」と書かれていた。

26日には群馬県の公式ツイッターアカウントに「安倍の次はお前だな」と山本一太知事を脅迫する投稿をしたとして、同県の派遣社員の男が脅迫容疑で逮捕された。

安倍氏の国葬を中止しなければ「全国の子供を誘拐する」などと脅迫する内容のメールが全国の自治体に送られている。

東京未来大学の出口保行教授は「ネット上の脅迫は愉快犯による犯行といえる」とみる。一方、実際に危害を加える模倣犯を防ぐ手立てについてこう指摘した。

「電車内やビルの放火などで無差別的に殺傷しようとする犯行の背景には、家族や地域との関係が断たれて失うものがなくなった『無敵の人』という存在があった。長期的な取り組みになるが、孤立した人物をすくい上げて社会とつなぎ、犯行による社会的なコストを自覚させることが重要だ」

https://news.yahoo.co.jp/articles/450dc2becb3592044d08aa96e5a9c8bbfbd1c15a