対策強化宣言の導入を決めた直後、記者会見に臨んだ山際大志郎経済再生担当相は、従来の対策と変わる点について問われ、「根底から何か(対策)を変えなくてはいけないわけではない。目新しいものが入ってないのは、むしろ自然な形だ」と理解を求めた。

 「第6波」までとは明らかに異なる感染拡大の急カーブが続いても、静観の構えを崩さなかった政府に動きがあったのは28日。この日、東京都の新規感染者が4万人を突破。27日時点で19府県の病床使用率が50%を超えていた。官邸に山際氏らを呼び、今後の方針を協議した岸田文雄首相は「すぐにやろう」。29日に山際氏が対策を発表する段取りを整えた。

 折しも、現場を預かる都道府県の知事たちが奈良市で一堂に会し、今回主流となっているオミクロン株の派生型「BA・5」に対応する新たな制度設計を政府に求める緊急提言を取りまとめていた。病床だけでなく、検査キットの不足、感染、濃厚接触に伴う医療スタッフの減員、搬送先がすぐに決まらない「救急搬送困難事案」の多発…。医療に関する頭の痛い報告も続々と官邸に上がっていた。

 現場の突き上げが、世論の手痛い政権批判に変わるのも時間の問題-。社会への“衝撃”を理由に行動制限を否定し続けていた官邸官僚は28日夜、「何もしないわけにはいかなかった」と沈痛な表情を浮かべた。

 実際、山際氏が発表した対策メニューはどれも、これまで政府の基本的対処方針に並んでいたものばかりだ。「網羅的に示すことに意義がある」「スムーズに多様なことができる」「国の総合調整機能が発揮しやすくなる」。会見で苦しまぎれの答弁を繰り返す山際氏。政府関係者は「あくまで注意喚起」と認めつつ、「対策強化宣言」という新しいワードを打ち出すことで、人々の行動が抑制される効果に願望を込める。

 政府が強い対策に踏みこまない背景には、BA・5の重症化や死に至るリスクが、医療機関にかからないまま自宅で息を引き取るケースが相次いだ昨夏の「デルタ株」ほどではないという評価がある。29日夜、記者団の前で首相は「さまざまな対策をフル稼働させつつ、一歩一歩経済社会活動を動かしていく」と語った。官邸内には「2週間ぐらいで感染者は減ってくる」との楽観論も聞こえる。

 とはいえ、専門家の間では、より感染力が強いとされる新たな派生型「BA・2・75」に置き換わることへの懸念も根強い。「今のところ主体になってはいないが、注視し続けなくてはいけない」と山際氏。場当たり的な対応ではないのかとの質問には、「どんどん姿を変えていくウイルスに対しては、その特性に合った対応を柔軟に取らなくてはいけない」と答えた。