(前略)
値上げして感謝された「ガリガリ君」
「25年間踏んばりましたが、60→70」――。赤城乳業(埼玉県深谷市)が2016年4月1~2日に放映した60秒のテレビCMは、大いに話題を呼んだ。
アイスキャンディー「ガリガリ君」を同年4月から60円から70円に値上げすることを、井上秀樹会長以下、社員100人以上が本社玄関前に整列して頭を下げるシーンを放映したからだ。
CMのBGMは、1971年リリースの高田渡のフォークソング「値上げ」。その歌詞は「値上げは全然考えぬ」から「なるべく避けたい」「認めたわけではない」「消極的である」を経て「やむを得ぬ」、そして「踏み切ろう」に至る。
当時のインフレの世相を皮肉った曲だったが、1991年以来60円の価格を据え置いてきたガリガリ君の値上げ告知が、苦渋の決断であったことが伝わってくる。
「そんなに長い間値上げしてなかったのか」「70円でも十分安い!」など、CMを見た消費者の反応は総じて好意的だった。YouTubeで公開したCM動画も早々に再生回数が100万回を突破。値上げという、本来あまり触れたがらないネガティブな話題を“作品”に仕立てたことが奏功した。企業スローガンに「あそびましょ。」を掲げる赤城乳業ならではのセンスだ。
値上げCMの狙いについて、赤城乳業営業本部副本部長マーケティング部部長の萩原史雄氏は、当時次のように語っていた。
「25年前に50円から60円に値上げしたとき、ガリガリ君におわびをさせてしまったんです。でもガリガリ君が悪いわけじゃない。だから今回は社員総出で頭を下げようと考えました」
ユーモアを交えつつも誠実にわびる姿は、消費者を動かした。値上げで販売本数の前年割れは不可避と想定していたが、4月は前年を約10%上回る売れ行きを記録した。
「ステルス値上げ」は消費者から嫌われる
話題になるモノやコトを仕掛けてクチコミを誘発し、Webニュースメディアが記事化してYahoo! ニュースへ、情報番組などマスメディアも取り上げて拡散し、店頭で購入した客の投稿がシェアされ……。
そんな「ソーシャルメディア時代のPR」によるバズサイクルの軌道をガリガリ君はしっかりものにしている。すでに10年も前からネット文脈に沿った話題作りを意識してプロモーションを展開してきた。
興味深いのは、これだけソーシャルメディア上で話題になるブランドでありながら、ガリガリ君をキャラクターとするTwitter公式アカウントは開設していないことだ。
「ガリガリ君がツイートするような企画をよく提案いただくが、リアルな場にネタを用意して、それにTwitterなどで突っ込んでもらうスタイルがガリガリ君には合っている」(萩原氏)
値上げについても同様のスタイルで臨み、ネガな話題をポジに変えた赤城乳業の取り組みには、見習うところが多い。
値上げを潔くわびる形で好反響を得た「ガリガリ君」に対し、シュリンクフレーション(価格はそのままで容量を減らす手法)によるステルス値上げで不評を買った事例も出ている。
菓子メーカーAは、まず枚数を減らすシュリンクフレーションによるステルス値上げを実施。次に、サイズを小さくするシュリンクフレーションを行い、一度サイズを元に戻すも、値上げを発表するなど、迷走劇を繰り広げてしまった。
食品メーカーBは、シュリンクフレーションによるステルス値上げを繰り返したことによる客離れも影響してか、商品の生産が終了してしまった。容量は11年の間に220g→200g→180g→120g→180gと目まぐるしく変わっていた。
乳業メーカーCは、「近年、飲用量が減少している」「飲み切れずに捨てた経験がある人が増えている」などの理由を挙げ、容量を10%削減。「うちは飲み切れてるのに」など消費者からの反感を買った。
原材料費や人件費、物流コストの上昇で、適正利益を確保するには従来価格、従来容量では難しくなる場面は当然出てくる。価格を据え置いて内容量を減らすのも一つの対処策だ。
ところがそれを「消費者が望んでいるから減らした」と消費者のせいにするようなメッセージを出すと反発を招く。価格の受容も結局のところコミュニケーションの巧拙にかかっている。
https://news.yahoo.co.jp/articles/38a832da4dab9ed0891fb9b711af2d55cce2c8bc