NHKはなぜ旧統一教会を実名報道に切り替えなかったのか? 経緯を知る局員は悔しそうに明かした(立岩陽一郎)


安倍元首相殺害事件によって明らかになっている旧統一教会と自民党との関係。その中でNHKの報道姿勢に疑問の声が上がっている。

最初は、旧統一教会を匿名にした報道だ。NHKも含めて主要メディアは「特定の宗教団体」という表現で報じ続けた。

では、どの段階で実名報道ができるのか? それは旧統一教会が山上容疑者の供述について、その事実を認めた段階だろう。当事者が認めた以上、匿名にする必要はない。その結果ということになるが、7月11日に教会側が記者会見を開いたタイミングでNHKも含めて主要メディアは実名報道に切り替えている。

ところが、NHKの複数の職員に確認すると実は、NHKは会見前に、その事実を確認していた。それは同じ日に報じたクローズアップ現代「安倍元首相銃撃 事件の“背景”に何が」の取材を進める中で教会が認めたものだった。これは番組内でも紹介されているが、教会は事前に文書で、明確に山上容疑者の供述にある事実を認めていた。

■「説明できる人はいなかった」

現場では、その取材結果を根拠に実名報道に切り替えるべきとの声は上がったという。ところが、ニュースの判断は変わらず、記者会見まで待つことになった。その経緯を知る報道局員は、「なぜ実名報道に切り替えないのか、説明できる人はいなかった」と悔しそうに話した。

なぜ実名報道に切り替えなかったのか? その理由は分からない。政権与党への配慮、忖度だったのか? その部分は否定できないが、私のNHKでの経験を踏まえると、実際にはそこまでの判断ではなかったという気がしている。そのポジションにいる人間が、これを出すと自分の出世に響くと感じたというような極めて低レベルな話だったのではないか? 私はそう思っている。

詳細は別に譲るが、NHKは出世が全てのような組織になっているからだ。

加えて、NHKには根本的な問題もある。読者は驚くかもしれないが、ニュースの判断をする人間がNHKでは明確ではない。例えば、ニュース番組にはそれぞれ編責と呼ばれる編集責任者がいる。しかし、その人物に全権があるわけではない。その上に複数の編集主幹、そして報道局長、メディア総局長、副会長、会長とさまざまな上司がいるからだ。

つまり、誰が最終的な判断を下すのかが明確ではない。 では本来は、誰が最終的な権限を持つのか? 放送法には「会長は、協会を代表し、経営委員会の定めるところに従い、その業務を総理する」とある。そうなると、前田晃伸会長だ。では、前田会長にその判断をする経験や識見があるのか? 残念ながら、そう思っている人はNHKの中でも極めて少数だろう。

https://news.yahoo.co.jp/articles/bb13c1d9873f8fb818ee2a454f88b9dd47d8ad00