あらゆる優れた作品は、それがどれほど身近に感じられる主題と戯れていようと、わたくしたちの誰にとっても、「純粋の他者」として姿をみせるもののはずではなかろうか。そして、田舎者と呼ばれる人種は、「純粋の他者」性というべきものを、既知の領域にとどまったまま考えようとする者たちなのだ。
 最後にくり返しておくが、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』は決して悪い映画ではない。個人的には『寝ても覚めても』の方を好んでいるが、これだって決して悪い作品ではない。また、『偶然と想像』(二〇二一)も素晴らしかった。ただ、どれもこれもが水準を遥かに超えている濱口竜介の作品といえども、現在の時点で、青山真治監督の傑作『EUREKA ユリイカ』(二〇〇一)の域にはまだ達していないといわざるをえない。


アカデミー賞という田舎者たちの年中行事につき合うことは、いい加減にやめようではないか|些事にこだわり|蓮實 重彦|webちくま
https://www.webchikuma.jp/articles/-/2803