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暗号資産を不正に取得したとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)に問われた被告らの公判で、東京高裁が、被告らが交換所に預けていた暗号資産について、「現行法では没収できない」とする判決を言い渡していたことがわかった。没収を認めない司法判断が明らかになったのは初めて。同法は法改正に向けた議論が進んでいるが、現状では暗号資産を没収できるかどうか、はっきりしていなかった。

同法違反に問われたのは、被告の男(32)と被告が経営する企業。

 高裁判決によると、被告の男は2018年、暗号資産交換業者「コインチェック」から約580億円相当の暗号資産「 NEMネム 」が流出した事件に絡み、何者かが不正に流出させたと知りながら、闇サイト上で計約5億3000万円相当のNEMを取得した。これらの一部は暗号資産の交換所に預けられていた。

 現行法は、犯罪収益が土地・建物などの「不動産」、現金や貴金属といった「動産」、預金などの「金銭債権」である場合に没収できると規定。専門家からは、発行主体が明確でない暗号資産はいずれにも該当しないとの見解が示されていたが、実務上の取り扱いは明確になっていなかった。

被告側は公判で無罪を主張していたものの、東京地裁で行われた1審では暗号資産が没収できるかどうかは争点にならず、昨年3月の地裁判決は、被告の男に懲役2年、執行猶予3年を言い渡すとともに、暗号資産の没収も命じた。

 2審でも当初、没収の可否は主な争点になっていなかったが、高裁は6月23日の判決でこの点を職権で判断。暗号資産は円やドルのように国や中央銀行の後ろ盾のある現金ではないことを踏まえ、「金銭の支払いを目的とする金銭債権にもあたらず、没収することはできない」と指摘し、1審判決を破棄した。その上で言い渡した判決は、被告の有罪を維持した一方、暗号資産の没収を認めなかった。