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日高屋、1杯390円もう限界 ラーメン店に値上げ圧力
「庶民の味」の代表格、ラーメンの価格が上がっている。総務省によると、6月の中華そば（ラーメン）の全国平均単価は617円と調査を始めた2000年以降で最高となった。ウクライナ危機に端を発した小麦や豚肉などの食材価格の高騰が響く。値上げの波は個人経営店だけでなく、大量生産で低価格を保ってきた大手チェーンにも広がる。価格に厳しい消費者が多い食べ物なだけに、食材高にどう立ち向かうのか。
「これまでギリギリで（値上げせずに）やってきたが、さすがに限界が来た」。ラーメン店「日高屋」を展開するハイデイ日高の青野敬成社長は、苦渋の表情を浮かべる。
日高屋の売りは、中華そばが一杯390円（税込み）という低価格だ。食材価格の高騰で他のラーメンチェーンが値上げに走る中でも価格を据え置いてきた。麺などの食材を製造する自社工場での自動化を進める一方、店舗では店員を呼ばずに注文できるタッチパネル式端末の導入を増やし、生産性の向上とコスト削減を両立してきた。
低価格路線の継続は客数の増加という結果で表れた。22年3〜5月期の既存店客数は前年同期比28.8%増。3月にまん延防止等重点措置（まん防）が解除されたことが大きいが、「価格を据え置いた効果もあった」
ただ、食材高の波に日高屋もあらがえなくなっている。麺用の小麦粉やスープに不可欠なしょうゆの価格が上昇しているだけではない。特に影響が大きいのが、豚肉や豚の脂である「ラード」価格の高騰だ。同社は豚肉の一部とラードを輸入に頼っている。
輸入豚肉の国際指標、米シカゴ・マーカンタイル取引所（CME）の豚赤身肉先物（期近）は、8月上旬時点で1年2カ月ぶりの高値を付けた。ウクライナ危機をきっかけに、飼料となるトウモロコシや大豆の搾りかすの価格が高騰しているためだ。ラードの仕入れ価格は前年比約2倍となったという。円安による輸入コスト増も響いた。
出店コストも重い。ハイデイ日高では新店1店舗当たりの出店コストが前年比で約2割増えた。厨房機器に使うステンレスなど資材の価格が上昇しているためだ。
食材高と出店コスト増による価格転嫁の圧力が強まり、ハイデイ日高はメニューの見直しを検討している。19年の消費税増税に伴う値上げでは価格だけ引き上げたが、青野社長は「より付加価値を付けた商品を作りたい」と話す。消費者に受け入れてもらうには、値上げだけではなく、お得感を感じてもらえる商品を作れるかがカギを握る。
高付加価値化で先を行くのが個人経営の有名店だ。一杯1000円超の高級ラーメンを提供する店も少なくない。
埼玉県八潮市のHandicraft Works（ハンディクラフト・ワークス）は炎天下でも客が途絶えない人気店だ。看板メニューは「クラシックパレット」と名付けられた混ぜそばだ。一杯1250円と高額だが、麺を覆うほどの牛肩ロース肉や羊肉、ソーセージといった様々な肉のトッピングが値段以上の満足感を与える。
食材価格の高騰を受けて5月に100円値上げしたが、ラーメン激戦区の埼玉東部にあって、客数は値上げ前と比べて変わらないという。店主の鶴岡祐介氏は「他店にはない、個性的な味を顧客は求めている」と分析する。
もっとも、高単価路線に動けるのは「他では味わえない一杯」を出せる人気店だけだ。ラーメン店コンサルの繁盛塾（東京・千代田）の木村康宏社長は「際だった強みのない店では、値上げが客数の大幅減につながりかねない。メニューの絞り込みなどで値上げをせずに耐える店も増えており、価格の二極化が進む」と予想する。
支出額、コロナ前比2割減
国内ラーメン消費は落ち込んでいる。総務省の家計調査によると、2021年の中華そば（外食）の年間支出額（総世帯）は5388円と、新型コロナウイルス禍前の19年比で20%減った。外出や宴会の自粛に加え、ラーメン店の営業時間の短縮が響く。
特に夜間帯の収益環境は厳しい。業績が堅調なハイデイ日高でも、「在宅勤務の浸透などで夜の売り上げが落ちており、コロナ前の水準まで回復できていない」（青野社長）という。
個人店は通販サイトや自動販売機に活路を求める。価格は店頭よりやや高めのものが多いが、ラーメン自販機を展開するN-pocket（横浜市）の吉田藍無社長は「高い品質の維持や物流にコストがかかる。価格は適正か、むしろ割安なものもある」と話す。
