東京都新宿区の路上で昨年夏、ロックバンドのメンバーだった男性がバンド仲間の男に転倒させられて頭を打ち、死亡する事件が起きた。酒席でのいざこざが原因だったが、男や他のメンバーらはすぐに救急車を呼ばず、男性が病院搬送されたのは半日後。男は傷害致死罪に問われ、東京地裁で7月、実刑判決が言い渡された。悲劇を招いたのは頭部負傷による昏倒(こんとう)と泥酔を取り違えた、判断の甘さだった。

いびき、嘔吐も…

「お前ら、全然飲んでないじゃん!」

「お前ら、全然飲んでないじゃん!」

昨年8月14日午前5時半過ぎ。ビジュアル系バンドのギタリストだった男性=当時(30)=は、アルバイト帰りにバンドメンバーらと新宿・歌舞伎町で4人で飲食していた。杯を重ね、酔いの回った男性は徐々に不機嫌になり、こう言って机を蹴り、店を出た。

「今のはないだろ」。同席していたメンバーの一人でボーカルを務める男(25)は腹を立て、男性を追いかけると背後から体を両手でつかみ、足をかけた。男性は転倒し、受け身をとれずに頭をアスファルトに強打。心配して店を出た他のメンバーらがその場で介抱したが、男性は嘔吐(おうと)し、いびきをかいていた。

酒が飲めない体質で、しらふだったボーカルの男は、男性が頭を打ったことをメンバーらに伝えたが「たんこぶだけだし、酔って寝ているだけだろう」と判断。タクシーで友人宅に男性を運び、寝かせた。夕方になっても目を覚まさないため、119番通報したが、男性は急性硬膜外血腫で死亡。ボーカルの男は傷害致死罪で起訴された。

判断の甘さ

公判では、被害者と被告らが夢に向かって音楽に打ち込んでいた様子が明かされた。

バンドは令和2年春ごろに結成。「日本武道館のような大きなステージに立つ」とメジャーデビューを目指し、アルバイトで生計を立てながら活動していた。亡くなった男性は10年以上、音楽活動を続けており「このバンドに全てをかける」と、周囲に打ち明けていたという。

メンバー同士で毎週のように遊ぶほど、仲もよかった。被告は男性について「本当に優しくて、大切な人だった」と話す一方、「酔うとメンバーや他のバンドにしつこくからんだりした」と、酒癖の悪さを懸念していたとも述べた。

つづき
https://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/sankei-_affairs_trial_Y4QOXMUJJVMTNNRCZ3MNKW7RVA.html