日本ではNEVの販売台数が少なく、普及率はわずか1%ほど。この限られた1%の市場では日産やトヨタなど国産ブランドが圧倒的な強さを見せつけている。世界のEV市場を席巻している米テスラでさえも、日本におけるモデル3の販売台数は日産リーフやトヨタのプリウスに遠く及ばない。
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今回、BYDが日本市場に投入することに決めた3車種は、欧州市場向けのセレクトとは全く違うものだ。
ATTO 3、DOLPHIN、SEALの3車種はそれぞれに位置づけが異なっている。ATTO 3は価格が15万元(約300万円)クラスのSUVで、中国市場ではBYDの代表的なモデルだ。プラットフォームはすでに最新版に更新されている。低価格帯のDOLPHINは10万元(約200万円)クラスのコンパクトEV。間もなく中国市場でも販売されるSEALは20万元(約400万円)クラスのハイエンドモデルで、BYDの最新電池製造技術「CBT(Cell to Body)」を採用している。
価格帯もタイプも異なる3車種を一挙に投入する戦略から、日本市場に対するBYDの入念さがうかがえる。
これに先立ちBYDは日本に子会社「BYD Auto Japan」を設立、2023年末までに日本全国に100カ所以上の販売ネットワークを作り上げ、販売代理店を通じてアフターサービスを提供する予定だ。
以前に、BYDが日本のEVタクシー市場に参入するという情報が出回ったが、BYDブランドPR事業部総経理の李雲飛氏は、今回の日本市場進出はモビリティー市場ではなく、消費者向け市場に焦点を合わせたものだと語る。日本での工場建設を検討するかどうかについては、海外市場のニーズや事業展開の状況を総合的に考慮した上で決定するとしている。
BYDの日本進出の理由について、デジタルマーケティング会社Artefactのパートナー陸盛贇氏が、以下のような考えを示した。
まず、日本は中国と距離的に近いため、BYDのサプライチェーンにとって問題は少ないと指摘する。また日本は比較的「伝統的」な市場であり、新エネルギー車の普及率が低いことに加え自動車のスマート化もそれほど進んでいないため、BYDはおそらくEV化やスマート化の分野にチャンスを見いだしているのでは、という。
「日本のように成熟した市場で渡り合っていくことは、BYDのブランドイメージを高める上で非常に有効だ。日本でブランド評価を確立すれば、欧州や米国市場への進出もいっそう容易になり、中国市場でさらに高級なイメージを持たせることにもつながる」
今から33年前、高級車市場に活路を求めたトヨタは、北米市場を徹底的に研究したうえでレクサスを発売し、当時ドイツの高級車が占めていた北米市場の構図を大きく打ち破ることに成功した。北米市場を足がかりとして、レクサスは高級車ブランドとしての確たる地位を手にした。今、日本の新エネルギー車市場でチャンスをうかがうBYDも、新たなブランドの進化の歴史を作ろうとしているのかもしれない。
日本は自動車生産大国であると同時に自動車輸出大国でもある。2021年、日本が輸出した自動車は382万台で世界トップだった。特に東南アジアでは圧倒的なシェアを獲得している。
一方、今の東南アジアではEV市場が高い成長率を見せている。中国のNEVメーカーはこの東南アジア市場に狙いを定めている。
乗用車市場情報連合会(CPCA)の崔東樹秘書長は税関の統計として、上半期に輸出された新エネルギー乗用車は36万2200台で、そのうち東南アジア向けの輸出は全体の16%を占める5万8400台だったと紹介した。
中国のEVブランドが東南アジア市場での事業拡大に乗り出しているものの、現時点で東南アジアにおける中国ブランドの知名度は依然として低いと、自動車輸出業の関係者は明かす。
日本のEVに実質的な成長がないにもかかわらず東南アジアのEV市場が大きな需要を示すとき、BYDが日本市場で確立したブランド力は、東南アジアへの輸出を拡大する上で大きな戦略的な意義を持つようになると考えられる
昨年にはBYDが欧州市場へ参入し、新興自動車メーカーや大手の高級車ブランドと共に、中国NEVの国際的な影響力を高めるべく努力を傾けてきた。
世界のNEV市場シェアでトップに返り咲き、中国の高級車市場での開拓を進めているBYDにとって、成熟しているもののいまだ不十分な日本市場を切り開いていくことにはリスクや難題が伴うが、今のBYDには技術面でも産業チェーンの面でもそれに立ち向かうだけの実力が備わっていると言えるだろう。
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