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2022.07.07 (木)
「 めぐみさんは生きている 」
『週刊新潮』 2022年7月7日号
日本ルネッサンス 第1006回

横田めぐみさんは生きている。

6月27日、「世界日報」一面トップの特ダネ、「全員が平壌市内に居住」の記事が伝えた最重要のポイントだ。北朝鮮工作機関「偵察総局」の元幹部、金グクソン氏が日本人拉致被害者について初めて語ったその核心である。

小泉純一郎首相の訪朝時、北朝鮮側は横田めぐみさんや有本恵子さんら8人は全員死亡したと日本側に告げた。金氏は言う。「あれは全て嘘だ。墓地が洪水で流されたり、被害者(めぐみさん)が精神病院に入院したというのも全てデタラメ」と。

日本人拉致被害者は「全員、子供と共に平壌市内に居住」しており、「食べる物、着る物、使う物などに不自由しないよう(朝鮮労働)党が配慮し、北朝鮮では極めて上流の生活」をしている、めぐみさんについては「皆が驚くような話もある」と証言した。めぐみさんの母、早紀江さんが語る。

「こんなに長い間、これ程私たちが求めても帰さないのは、何か事情があって使われているのでしょう。それを思うとたまりません。親の勘として、(自殺などの)変なことにはなっていないと確信しています。めぐみは状況をよく見て、展開しながら考えていく人ですから、極端に走ることはないと思います」

めぐみさんら拉致被害者が平壌で暮らしているという重要情報をもたらした金グクソン氏について、救う会会長で麗澤大学客員教授の西岡力氏が近著『韓国の大統領はなぜ逮捕されるのか』(草思社)で詳述している。それによると金グクソンは偽名だが、氏が北朝鮮対南工作機関の幹部だったのは間違いない。

金氏は工作員養成学校である金正日政治軍事大学卒業後、労働党の対外連絡部工作企画官としてキャリアの第一歩を踏み出した。労働党作戦部で計21年をすごし、偵察総局5局戦略企画秘書官・大佐に昇進、その後も工作機関で戦略立案を手掛け、2014年9月末、韓国に亡命した。

秘密のミッション

亡命のきっかけは、家族と北京に駐在していたとき、30年間も兄弟の交わりをしてきた張成沢が粛清されたことだった。叔父にあたる人物をむごい形で粛清した金正恩の魔の手から逃れ、韓国では国家情報院傘下の国家安全保障戦略研究所に勤めた。しかし、北朝鮮に取り込まれた文在寅大統領の対北朝鮮政策に失望して19年5月、同研究所を退職した。

西岡氏の指摘だ。

「金氏は昨年、BBCの取材を受けて、韓国がすでに北朝鮮からスパイを送る必要がないほど政治的に北朝鮮に従属していること、朴槿恵弾劾も自分たちが仕掛けたことなどを、実例を挙げて詳しく説明しています。彼は間違いなく北朝鮮の工作機関の中枢にいたのです」

金氏は、拉致に直接関わっていないとしながらも、拉致問題の解決策を提言せよと指示されたと語る。

https://yoshiko-sakurai.jp/2022/07/07/9452