今回の彼らのような「支黒」系のネットユーザーは、ネタ半分本気半分という形ながら、“中国人をヘイトする中国人”という特殊なポジションの人々である。近年の中国のネット空間では、反中国的な言説に必ず噛みつき過激な反米・反日的言説を振りまく「小粉紅」(xiǎo fěn hóng)と呼ばれる中国版のネット右翼が主流のネット民意を形成しており、「支黒」はこれに対する戯画的なカウンターという立場だ。

なお、中国の反体制的かつ不謹慎系のネットユーザーは、中華人民共和国のことを故意に「支那」、中国人民を「支那人」、中国共産党を「支共」(=支那共産党)などというネットスラングで呼ぶ。

言うまでもなく、「支那」は第二次大戦までの日本側からの中国の呼称で、現代中国では最大の罵倒語だとみなされている。だが、それゆえにゼロ年代から香港や台湾の反中国系ネット文化のなかでしばしば使われ、やがて大陸の中国人にも伝播した。「支黒」という単語も、「支那」を「抹黒」(mǒ hēi;泥を塗る)するといった意味のスラングだ。

彼らの一部が、中国国内のネット上の愛国的・反民主主義的な言説を日本語や英語に翻訳して晒す「大翻訳運動」という行為を現在も行っているのだが、この運動にも「支黒」のカルチャーが強く反映されている。

「支黒」の場合は、民族的には同じ相手を「支那」呼ばわりしているので、厳密にはヘイトスピーチと呼べるか微妙なのだが、日本語で彼らの意見を読むとぎょっとするのも確かだ。いっぽう、リアルの本人たちはお行儀よく清掃活動をおこなっていたりもする。なんとも、現時点では評価の難しい人たちではある。

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