アベノミクスの第一の矢であり、現在も続く日本銀行の金融政策は、民間の将来「予想」を変化させることによって経済に影響を与えることを特徴としている。1
2年11月14日には、金融政策が近い将来に転換するという「予想」の影響力を証明した。
この日、経済政策のレジームが変わったと言っても過言ではない。総選挙における自民党の地滑り的な勝利、
その後の日銀人事において金融緩和派が正副総裁に就任したことによって、金融政策転換への予想はさらに強まっていくことになる。

 これまで行われてきた慣習的な政策運営を誰の目にも明らかな形で転換するためには強力なリーダーシップ、そしてそれを可能にするだけの党内での政治力、さらには高い支持率が欠かせない。
このような政策転換を演出し、それを実現させることができたのは、安倍氏の存在あってこそである。

 円高の修正と急ピッチでの株価上昇については前出の通りであるが、第2次安倍政権発足当初、アベノミクスは為替・株価等の金融市場に影響を与えるのみで、
実体経済への波及は見られないとの批判が散見された。
しかし、13年後半には比較的動きが遅いと言われる雇用においてさえも、その改善は明確になっていく。求人数を求職者数で割った有効求人倍率は12年前半には0・7台だったが、
13年後半には1を超える──つまりは求人の数が職を求める人の数を上回るようになってきたのだ(厚生労働省「一般職業紹介状況」)。

 この雇用の改善をリーマン・ショックからの趨勢的な改善にすぎないと評する向きもあるが、誤りである。これを確認するために雇用者数の推移を見ていこう(図1)。
10年から12年にかけて雇用者数は5500万人前後で横ばいが続いていた。これが13年央には上昇トレンドに転じ、19年には6000万人台に到達した。
この傾向は自営業者や家族従業者を含む就業者ベースで見ても変わらない。

 さらに、同時期には正規従業員数も顕著に増加している点も注目に値する。現在の基準による正規・非正規従業員の統計は13年以降の数字しか得られないが、
13年に3300万人だった正規従業員数は、19年には3500万人に増加している。同時期の雇用拡大を、定年に達する団塊世代の継続雇用増大に求める言説もあるが、
団塊の世代が60歳を迎え始めたのは07年であるため、このような継続的な雇用拡大の主因とは捉えづらい。

 これらの成果は円高の是正や資産価格の上昇と無縁ではない。円高の是正は生産拠点の海外流出を防ぐことを通じて、国内雇用を維持することとなる。

 また、大胆な金融政策は地価の下げ止まりにも資するところとなった。中小・中堅企業にとって、地価は財務状況を大きく左右する。保有資産の評価額が高ければ、
金融機関からの借り入れが容易になるためだ。これら中小・中堅企業財務の改善を通じた雇用増加も、雇用情勢改善の要因である。


(後略)

https://news.yahoo.co.jp/articles/99f73196356bc84b7c6f2cb7da70c6b69ed86dd2?page=2