小学4年生からコンサータを服用している男性の母親は、「必要がなくなったら、いつでも止められる」と医師に言われ、風邪薬を飲むような感覚で服用を始めたという。
「コンサータを飲み始めてから食欲がなくなり、給食を食べられなくなりました。健康診断では毎年、やせ過ぎと言われていました」。
24歳の現在もコンサータだけでなく、リスパダールや睡眠薬、抗不安薬も処方され、量と種類は増えるばかりだ。
吉田さんの娘やこの男性のように、子どもの頃からの長期服用で薬を止められないケースは珍しくない。
コンサータはリタリンと異なり、薬の成分がゆっくりと溶け出す。そのためリタリンのような身体的な依存性は低く、乱用は起こりにくいといわれている。
しかし、「長く使うと、心理的な依存は起こる」と児童精神科医の石川憲彦医師は指摘する。
家族や周囲が「薬を飲んでいたほうがいいよね」と服用を求めるようになる。そして、本人も飲んでいる状態が普通になると、薬がないと不安になりやめることができない。

石川医師は、「子どもの多動は、成長とともに落ち着くことがほとんどだ。しかし、最近では脳が発達途中の7~8歳以前に、薬を服用するケースが増えている」と話す。
こうした向精神薬を低年齢の時期から長期服用することによる身体への影響は、データの収集や調査すら行われていない。
「すべての薬には副作用のリスクがある。症状が重く、薬を使うベネフィットがリスクより大きければ使う。だが、成長過程の脳に作用する薬を長期間飲むことの影響はわかっていない。
どうしても必要なときに限って、明確な目的と期限を決めて使えば問題ないが、そうした使い方をする医師は少ない」(石川医師)
薬がやめられなくなり、吉田さんのように服用させたことに罪悪感を覚える親がいる。だが、服薬の可否を親に迫ること自体が残酷だ。それは親だけの責任ではない。
親子が薬に頼らざるをえなくなった環境、そして薬を漫然と処方する医師にこそ責任がある。

当時、吉田さん自身も追い詰められていた。「迷惑をかけて、すみません」。娘が子どものころ、吉田さんは毎日のように周囲に頭を下げた。
「人に迷惑かけてはならない。薬で抑えられるなら、飲めばいいという思いはあった。
うちの子が薬を飲めば大人しくて、先生たちの手を煩わせないのかなと。今思うと、そこまで頭を下げなくてもよかったのに、そのときはそうしないと、自分が保てなかった」
国連の子どもの権利委員会は2019年、子どものADHDの診断と向精神薬の処方が増加していることに深刻な懸念を示し、その根本的原因について研究を実施することを日本に要請している。
しかし、国連の勧告に反して、向精神薬の服用はより低年齢の幼児にまで広がっている。


子どもに「向精神薬」を飲ませた親の深い後悔
https://toyokeizai.net/articles/-/535849