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和解後に調書を訂正、その翌年に旧統一教会の名称変更を認めた…文化庁の不可解な対応の甘さとは

「従前の宗務行政の適法性・妥当性に疑問の余地がないわけではない」。2014年、鳥取地裁米子支部がこんな和解調書を決定した。文化庁のこれまでの旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)への対応を批判する内容だ。しかし、国側は猛反発し、この部分をばっさり削除した「更正調書」を裁判所に作らせていた。同庁は、この和解の翌年に、旧統一教会の名称変更を認めた。浮かぶのは、文化庁の不可解な対応の甘さばかりだ

◆国側から裁判所に強い要求
 「被告国においても、従前の宗務行政の適法性・妥当性に対する疑問の余地がないわけではないことや、今後適切な宗務行政がなされることを期待する」
 2014年7月10日、鳥取地裁米子支部が作成した民事裁判の和解調書に、裁判長が国の旧統一教会への対応を非難する文言が記された。しかし、この和解調書は翌月5日に「更正調書」として訂正されることになる。訂正後の調書では、この裁判長の文言が丸々、削除されてしまった。
 この裁判に原告側弁護団のメンバーとして関わった勝俣彰仁弁護士は「普通だったらありえない。この文言は和解の場で裁判長が口頭で述べたものをそのまま載せただけ。事実に間違いがあるわけではなく、被告側からの不当な削除要求だった」と振り返る。
 和解は7月10日で成立しているにもかかわらず、勝俣弁護士によると、この調書が関係者に配られた後、被告側から裁判所に対して、文言を削除するよう強い要求があり、裁判所が応じたのだという。
 勝俣弁護士はこの対応に納得していないが、「原告が高齢だったので被害弁償を優先し和解に応じた。裁判所が示した事実はあるので、しぶしぶ承知した」と訂正に応じた理由を語る。
◆和解文書が2通に「国のおかしさ浮き彫り」
 この裁判は、中国地方に住む高齢女性が、旧統一教会の霊感商法や献金強要などによって受けた損害賠償などを求めた訴訟で、09年に提訴した。国が教団に対して宗教法人法上求められる措置を適切に行っていなかったとして、国の「行政不作為」も問うた。旧統一教会の問題に関連して国賠訴訟を起こした初めての事例だとされる。
 和解は成立しているので、訂正されたとはいえ、当初の調書も記録として残る。訂正後の調書と合わせ、和解に関する文書が最終的に2通残ることになった。勝俣弁護士は「国は文字として残したくなかったのかもしれないが、逆に2通の記録が残ることになった。その事実が国や旧統一教会のやり方のおかしさを浮き彫りにしているのではないか」と話す。
◆「国の責任追及する」途端に示談金上積み
 国と旧統一教会が関係する損害賠償を巡っては、他にも不可解な例がある。
 08年、千葉県の女性が献金した約2億2000万円の損害賠償を求めていたところ、教団側は献金額を上回る2億3000万円を支払う内容で示談に応じた。
 06年に賠償を求めた当初、教団側は約1億3000万円を提示していたが、被害額と隔たりがあるため、女性側が「国の責任も追及する」との訴状案を送付すると、教団側は歩み寄り、献金額を上回る額で合意に至った。
 女性側の代理人を務めた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の紀藤正樹弁護士は「そのころは、教団の勧誘の違法性などを認める最高裁判決が出そろった時期と重なる。解散命令が出されるといったことを恐れて、国が相手となる訴訟が起きるのはまずいと思ったのかもしれない」と、教団側の対応が変わった背景を推測する。
◆全国弁連が解散命令請求も文化庁は却下
 米子の訴訟では、旧統一教会の所轄が都道府県から国に移った1996年以降、2009年までに少なくとも9回、文化庁宗務課が教会から任意聴取していたことなどを示す報告書も提出されていた。だが、そこから浮かぶのも「宗務行政の適法性・妥当性に対する疑問」だ。
 報告書は12年、当時の宗務課長が提出。「所轄庁の権限は、政教分離の原則から、宗教団体の活動の自由に干渉するようなことがあってはならず(中略)、憲法違反のおそれが生じます」と法の制約を強調した上で、9回の事情聴取では「適正な管理運営や個別事案への誠実な対応をするよう、口頭ではありましたが、明示的に、強く求めてまいりました」などとした。
 一方、この報告書では、全国弁連がたびたび、旧統一教会の収益事業の停止命令▽同会への報告徴収・質問権の行使▽同会の解散命令請求—などを文化庁に求めたのに対し、「慎重な検討が必要」「権限の行使は難しい」などと、拒否していたことも分かる