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夫の携帯にカタカナの登録名…かけてみたら「ぼろぼろ涙が出ました」
夫は死なない、夫は失業しない、離婚しない。社会学者の落合恵美子さんが挙げた「主婦が安心して主婦をやっていられるため」の3条件だ。
1年前、佐和子さん（36）＝仮名＝は、この「条件」の意味を自分で体験して、理解した。
「最初は、帰りが遅い日があるな、っていうくらいでした」。やがて、休日にも鳴る携帯電話も耳につくようになった。誰か女性が…。
真夜中に夫の携帯の発着信履歴を調べるようになった。カタカナで名字だけを登録した相手と、よく通信していた。
「昼間にかけてみたら女の人で、ぼろぼろ涙が出ました」。夫を問い詰めて口論になり、一時は離婚も、と思い詰めた。結婚から9年。突然の「天災みたいだ」と思った。そして、さらにショックを受けた。
「もし別れたら、専業主婦って無職女になるんですよね」。夫は会社員のまま、自分だけが強制的に「肩書」を書き換えられてしまう理不尽さを知った。
4年半勤務した不動産会社を、佐和子さんは出産を機に退職した。その春、育児休業法が施行（1992年）されたが「仕事はもう十分だし、ちゃんと子育てしたい」と、働き続ける選択は頭の中になかった。
家事と育児に専念し、2児を育てた。長女が8歳、2女は6歳。自分の選択は「家族にとってベストだった」と今でも思っている。
「結婚とか、出産のときに、未来の破局なんて予想しませんよね…」
しかし、離婚件数は年々増加を続ける。2000年は過去最高の約26万4000組が離婚し、2分に1組が破局した計算になる。もはや「天災」とはいえない。
また、民間の結婚情報会社が昨年、30、40代の離婚経験女性に実施した調査では、離婚時に27％が専業主婦だった、というデータもある。
佐和子さんは今、半「仮面夫婦」の状態を続けている。夫は女性との関係を否定し、妻も最後までは追及できなかったからだ。ただこの1年、佐和子さんの中でスイッチが一つ切り替わった。混乱していたころにかけた電話相談がきっかけだった。
「当時は、別れたくはないけど、不満だらけ、って状態でした」。守ってきた家庭を否定された思い、自分の立場の理不尽さ…、そんな思いをはき出した。辛抱強く話を聞いたあと、電話の相手が言った。「今度は、自分のために何がしたいか、考えましょう」と。
「実は、これが一番難しかった。ずっと、家庭を中心に考えてきたから『自分の』っていう基準が、すり減ってた」。それでも、夫との問題の中で、相手に対してずっと「自分は、外で好きなことばかり」という不満を抱いていたことに気づいた。「それで思ったんです。あ、私、外に出たかったんだ、って」
「無職女」がショックだったので、まずは仕事をしよう、と決めた。来春、2女の小学校入学は良い機会だ。「別に離婚準備じゃないですよ」。この9年、「家族」が基準の専業主婦だった。だから「自分」の基準を取り戻す、リハビリにしたい、と佐和子さんは思っている。
